自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

ヲタクに恋は難しい

映画ファンなら誰でも経験したことがあると思うのだが、大絶賛されている作品を見ると、「確かに良い作品だが、自分の年間ベストの首位争いをするほどじゃないよね」と思うことが多々ある。最近でいえば、「パラサイト」もそう感じた作品かもしれない。

その一方で、大酷評されている作品を見て、「意外と面白いじゃん!」と思うことも結構ある。最近でいえば、「キャッツ」なんかがそういう作品だと思う。

で、この実写版「ヲタ恋」も後者のタイプだった。ただ、同じミュージカル映画に分類される「キャッツ」と「ヲタ恋」だが、両者には決定的な違いがあるんだよな…。

「キャッツ」に関しては、CG合成のキャラクターのビジュアルが気持ち悪いとか、作中のエログロ描写が生理的にダメとか、あるいは欧米であれば、宗教観とか人種的な問題で受け入れられないといった理由で批判されている部分が大きいと思う。なので、ミュージカルとしては、大きな問題もない平均点レベルの出来で、極端な話、ミュージカル・ナンバーのかかっているシーンだけを見ても話が成立していると思う。まぁ、台詞自体少ないし…。

ところが、この実写版「ヲタ恋」は、ミュージカル・シーンを全部カットしても話が成立するんだよね。そんなのミュージカルじゃないだろ!

要は邦楽の歌詞でサビのところなんかで、例えば、「I LOVE YOU」と歌った後に、日本語で「愛してる」みたいに同じことを歌う曲って結構あるが、あんな感じなんだよね。つまり、前後のミュージカル・シーンでないシーンと同じことをやっているだけ。そりゃ、ダレるよ。

あと、画が絶望的に安っぽい!ヤバイTシャツ屋さんとか、岡崎体育とか、キュウソネコカミとかのネタ系邦楽アーティストのMVみたいって感じかな。そんなのを延々と何回も見させられるのは苦痛でしょ!ちなみに、ヤバTは好きです。

まぁ、こんなレベルの映画を作り、それがヒットしているようでは、日本映画が本家のアカデミー賞の作品賞を取るなんて無理だよ。韓国映画にとっくの昔に追い抜かれてしまったことにすら気付かず、いまだに精神論・根性論で、安っぽい映画を作っていてはダメ。どんなに内容が良くても、手弁当とか低予算とかを売りにしているような映画を絶賛するのはやめようよって思えてくる。

 

それから、これは多くの人が指摘しているが、ヲタク描写がステレオタイプだな。事件が起きると、警察やマスコミが決まって、アニメやアイドル、ホラー映画、メタルみたいなものに影響されて犯行に至ったみたいなことをぬかすが、本当、それと同レベル。

あと、ドルヲタ設定のキャラが出てくるが、それが、声優アイドルヲタクってのも、は?って感じだな。要はヲタクの違いがよく分かっていない。

自分はアニメにも声優にもアイドルにもメタルにも足を突っ込んでいるが、ドルヲタと声優好き・アニヲタは結構仲悪いからね…。何故か、メタル野郎には、アニヲタもドルヲタもいるが…。

その声優アイドル好きキャラが通うライブの現場も参加者全員がヲタ芸をしているというありえない描写になっているのもステレオタイプのヲタク描写の典型だな。アイドルだろうと声優だろうと、多くの現場でヲタ芸禁止になってからしばらく経つし、最近はそれどころか、ジャンプ禁止や家虎禁止の現場も増えているのに、無知もいいところ。

ところで、ヒロインのウザいしゃべり方も、多分、参考にしたのは、しょこたんだよね?結局、この映画のヲタクのイメージって、2000年代半ばくらいで止まったままなんだよね。見た目が、いかにもヲタク・腐女子ってなっていないだけで…。

ヲタク・腐女子のイメージといえば、体型は小太りかガリガリで、髪の毛は長髪を縛っているか男だと後退しているか、服装は男ならチェックのシャツで女なら森ガールみたいな格好かゴスロリみたいなの、それに大きなカバン・リュックを持ち歩いているみたいな感じだろうが、世の中、そんなヲタクばかりじゃないんだよ!お前らステレオタイプでヲタク像を語ってんじゃねぇよ!というのを世間に訴えたというのが本作の原作(自分は原作は読んでおらず、アニメ版を見ただけだが)の優れた点だと思うが、この実写映画はただのステレオタイプのヲタク像をなぞっただけだからな…。

まぁ、原作・アニメも突っ込み所は満載だとは思うが。主要キャラはどいつもこいつも美男美女すぎるし、生活パターンはかなりリア充だしね。

 

さらに批判したくなるのは、設定に手を加えたところかな。この実写版のキャストが発表された時には、また、ケント・ヤマザキがコミック・アニメの実写化作品に主演かよ!いい加減にしろよと思ったが、そのケントを含め、メイン4人は結構イメージにあっていた。でも、完成した作品を見ると、先輩カップルの存在感がほとんどない。変わりに、賀来賢人演じる同僚の声豚が3番手扱いになっているのもなんだかなって感じ。そして、この賀来をはじめ、ムロツヨシ佐藤二朗といった福田雄一作品の常連俳優の登場シーンがことごとく不要なんだよね…。

 

福田雄一といえば、「ヨシヒコ」シリーズや「アオイホノオ」といったゲームやコミックなどをネタにした深夜ドラマは評価されているし、アイドル主演のほとんどコントな深夜ドラマも作っている。要はヲタク文化は理解しているはずなんだよな。

舞台ではミュージカルもやっているし、WOWOWではミュージカル・コントのような番組もやっていた。ミュージカル分野も精通しているはず。

それに、コミック原作実写化映画でも「銀魂」や「変態仮面」の両シリーズは評価されている。

なのに、何故、こんなにも、ヲタク描写にしても、ミュージカル演出にしても、そして、何よりも映画としても酷い作品になってしまったのだろうか…。

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