自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

1917 命をかけた伝令

良い映画か悪い映画かと聞かれたら、良い映画と答える。アカデミー賞で受賞した3部門(撮影・録音・視覚効果)に関しても、受賞したのは納得できる。でも、正直なところ期待はずれだったかな。

映画の撮影も上映もフィルムだった時代は、1巻あたりの尺数に限界があったので、どうやったって、リアルなワンカットは十数分がマックスだった。
でも、撮影や上映がデジタルになり、約2時間全編ワンカットの映画も可能になった。しかも、CGやVFXの技術も向上したし、映像も音響もデジタルで編集するようになった。だから、いくらでも修正や加工ができるようになった。

にもかかわらず、ワンカットではなく、ワンカット風で作ったというのは中途半端な演出としか思えない。ワンカット風というのは、日本の配給・宣伝側の謳い文句では抑えられているが、マスコミが取り上げる際にはきちんと言及しているものも多いので、ワンカットではなくワンカット風であることに怒るつもりは全くない。
自分が憤慨しているのは、ワンカット風ですらなかったことについてである。

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 ワンカット風のMVなんかでよくある、パンした時とか、暗闇や煙を映した時とか、柱とか壁が映った時とかに、多分、ここで編集しているよねってのをよく見かける。U2の「ナム」とかジャミロクワイの「ヴァーチャル・インサニティ」なんかは、そのパターンだよね。製作者側は編集したと明かしていないけれど、やたらと柱が映るリサ・ローブの「ステイ」もそうなんじゃないかなと個人的には思っている。でも、そういうワンカットに見せようという努力は評価したいと思うし、これらのMVは実際、良くできているしね。

ところが、この「1917」は、途中で明らかに、そういうごまかしでない、カット割りがされているところがあるんだよね。しかも、そこで時間がかなり経過してしまっている。もう、ワンカット風ですらない。大ウソもいいところ。


しかも、この明らかなカット割りをしてからは、ポリシーも何もあったものではない。
また、MVの話をするけれど、空にパンアップしたり、水面に寄ったりした後に、パンダウンしたり、ひいたりすると別の場面になっているというMVをよく見かけるけれど、それと同じことをしているんだよね。もう、興醒め。

最後までワンカット風で通さなかったのは演出放棄としか思えない。そりゃ、本命視されていたアカデミー作品賞・監督賞を受賞できないのも当たり前だよ。

 

またまた、MVの話になってしまうが、途中までワンカットで通していたのに、終盤になっていきなりカットを割り出すMVってよく見かけるが、アレと同じガッカリ感があるな。コールドプレイの「ア・スカイ・フル・オブ・スターズ」とか、最近ではあいみょんの「さよならの今日に」なんかもそう。撮影中、編集中に無理だと気づいたのかもしれないが、最初のプランが成功しないと分かれば、無理にワンカットにこだわらなければいいのにねとは思う。
まぁ、この「1917」に関していえば、ワンカット風というコンセプトを捨てたら30分程度で済んでしまうほどの内容しかないけれどね。

 

ちなみにワンカットという言葉は和製英語なんだよね。英語ではワンショット。
たがら、「カメラを止めるな」の英語タイトルが「One Cut of the Dead」ってのも間違いなんだよね。それに、ゾンビ退治なら海外ではカットよりも、ショットの方がイメージわくよねとも思う。まぁ、日本は銃社会じゃないからショットにはならないんだろうけれどね…。

 

話は「1917」に戻るが、作品自体は感動的だし、内容自体に文句はありません。
あと、英国や米国の映画人がドイツ人をあまり好きではないというのもよく分かった。今回のアカデミー賞ではもう1本、ドイツの軍組織が悪役の「ジョジョ・ラビット」があるしね。まぁ、ハリウッドはユダヤ系社会だから、当然といえば当然なのだが…。


それから、戦争映画、しかも、戦場を舞台にした作品で大作なのに、登場人物が少ないのが印象的だったかな。先日、「戦争映画が苦手な人にもおすすめ」というネット記事を見かけたが納得。まぁ、登場人物が多く、似たような格好した人物ばかりで、しかも汚れている。舞台となるロケーションも汚れている。さらに内容も内容だから画面も暗い。だから、人物の区別がつかないってのは分からないでもないが。

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 とりあえず、ゴールデン・グローブ賞では、この「1917」が作品賞を取ったのに、アカデミー賞では本命視されていた本作ではなく、「パラサイト」が作品賞を取ったのも納得できた。
ゴールデン・グローブ賞はハリウッドで活動する外国人記者が選ぶ賞。アカデミー賞は白人を中心とした業界人が選ぶ賞と、選ぶ人間が違うことが影響しているのかな。
要は外国人記者は、自分の国をおしのけて韓国映画が受賞するのは許しがたい。嫉妬もあるし。それに黒人にはアジア人を見下しているのも多い。だから、「パラサイト」をメインの作品賞で評価したくない。
それに対して、白人は実は黒人ほどアジア人を見下していない。しかも、リベラルとか黒人とかが、白いオスカーとか批判してくるのが鬱陶しかった。お前らの批判している白いオスカーってのは、黒人や女性、同性愛者が対象でアジア人なんか興味ないんだろ?という嫌味も込めて、わざと、「パラサイト」を選んだってのもあるんじゃないかな。