自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

劇場版『SHIROBAKO』

ジャンルは違えど広義のクリエイティブ職に就いている人間、就いたことのある人間、あるいは、自分もその分野の人間と思い込んでしまうほどのコアなファンとかなら、共感したり、評価したりしたくなる作品であることに間違いないなとは思う。

ただ、日本のクリエイティブ職の限界も痛感させられる作品でもあった。

それは、主に金や時間など労働環境に関する部分だけれどね。

そして、何気に、偏った思想のファンで支えられている業界なので、巨乳と軍国主義をアピールすれば受けるみたいなものも描かれていた点にも感心した。最近、アニメファンがやたらと、性的描写や嫌韓的描写をネトウヨ的視点で擁護しているのはまさにこれだしね。

あと、日本のクリエイティブ職の人間って、アニメならアニメ、映画なら映画、報道なら報道と、専門分野には詳しくても、それ以外の分野には弱いよねってのを本作を見て改めて実感した。アニメに関する部分はかなりリアリティがあるけれど、作中に登場するテレビのシーンとかになると、急にリアリティがなくなるんだよね。

テレビで流れる報道情報番組を見るシーンで画面に「果して」って文字が出てきたが、実際の報道情報番組では「果たして」って表記だし、アナウンサーとかキャスターと呼ばれる人は「本日」って言葉は使わないんだよね。「きょう」と言うんだけれど、それを知らないようなんだな…。日本の映像作品にリアリティがないのは、金と時間のせいというのが最大の要因だと思うが、それによって、作る側が他ジャンルの作品を見ることも、新聞を読むことも、ワイドショーでないニュースを見ることもできないから、そういう知識が蓄積されないんだよね。本作はアニメに関する部分がリアルであるがために、そうでない部分のリアルでない描写が目立ってしまうんだよね…。

 あと、クリエイティブ職っていうと、世の中の人は「好きなことやっていていいね」なんて言うけれど、そういう仕事やっている人のほとんどは好きな仕事なんてやれていないんだよ!というのも描かれていて、そりゃ、プロ・アマ問わず、クリエイティブな作業をやったことのある人間なら共感するよねとも思った。

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 それにしても最近、クリエイティブ職の苦悩を描いたアニメって多いよな…。

現在放送中のTVアニメ「映像研には手を出すな!」は映像研という名のアニメ制作集団の話だし、2度のTVシリーズを経て去年、劇場版が公開された「冴えない彼女の育てかた」は同人ゲームクリエイターの話。そして、去年公開されたアニメ映画「空の青さを知る人よ」は、楽器の練習をする主人公よりも、彼女の憧れの人で姉の元恋人である人物が演歌歌手のバック・バンドのメンバーになっているという中途半端に夢が叶ったクリエイティブ職の人間の描写に共感してしまう作品だった。

 

そして、クリエイティブ職が題材になりやすいのはアニメに限ったことではない。

朝ドラなんて、ここ最近でも、「べっぴんさん」(洋裁家)、「わろてんか」(芸能興行師)、「半分、青い。」(漫画家)、「なつぞら」(アニメーター)、「スカーレット」(陶芸家)と主人公はクリエィティブ職ものがずらり。

今後も「エール」が作曲家、「おちょやん」が女優とクリエイティブ職ものが続く。ここ最近の主人公がクリエイティブ職でない朝ドラでも、「ひよっこ」は主人公の幼なじみが女優だし、「まんぷく」は主人公が自らテレビCMに出たりする上に義兄は画家だし、クリエイティブ職と無縁ではない。

 

さらに、クリエイティブ職ものが頻繁に登場するのは日本に限ったことではない。

2010年代にアカデミー賞の作品賞を受賞した作品のうち、実に「アーティスト」(映画)、「アルゴ」(映画)、「バードマン」(映画・演劇)、「スポットライト」(マスコミ)、「グリーンブック」(音楽)と半数の作品が芸能やマスコミといったクリエイティブ職の世界を描いた作品だ。しかも、発表ミスではなく「ラ・ラ・ランド」が本当に作品賞を受賞していたら、その数はさらに1つ増えることになっていた…。

また、「シェイプ・オブ・ウォーター」の主人公は映画館の上に住んでいるし、海外の報道機関にはロイヤル・ファミリーを政治ではなくショウビズの一種と見るメディアもあるので、その基準でいけば、2010年度の作品賞受賞作「英国王のスピーチ」だって、クリエイティブ職の映画になってしまう。それから、今回のアカデミー賞では作品賞を逃しはしたけれど、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」と、そのものずばりタイトルにハリウッドが入った作品が作品賞にノミネートされていたしね。

 

つまり、作る方も評価する方もクリエイティブ職の人間だから、作りやすいし評価しやすいってのはあるのかな…。

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 それにしても、自分も映画や音楽に目覚めた頃はそうだったが、いざ、自分がクリエイティブ職の世界に足を踏み入れてみると、素人が業界人ぶって語っているのってイラつくよね。特にこういうクリエイティブ職ものについて、リアルだのなんだのって語っているのを見聞きするとなおさらね。まぁ、ブロガーとかYouTuberで少額でも収入を得ている人は一応、クリエイティブ職を名乗っていいのだろうが、単なるアニメオタクや映画マニアが、自分がその業界の人間になった気で偉そうなことを言っていると確かに腹が立つな…。