自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

カセットテープ・ダイアリーズ

ブルース・スプリングスティーン(ボス)に触発された男子の成長ストーリー「カセットテープ・ダイアリーズ」を見た。

1987年に16歳だった少年の物語って、俺と同じじゃん!

当時の日本はバブル真っ只中、本作の舞台となった英国やボスの出身地・米国は失業者だらけの時代だったし、本作の主人公は英国在住のパキスタン人だけれど、国や人種、生活環境は違っても、同世代に共通する何かがあるというのを感じた。

 

それから、主人公が書く仕事を目指している(その後、ジャーナリストになった)というのも高校時代、脚本とかのコンテストに応募していた自分に似ているよなと思った。おかげさまで、自分も広義では文章を書く仕事(ニュースやワイドショーの原稿・台本だけれど)に就くことができたが…。

それから、主人公の父親が“頭がかたい”ってのも、何かうちと似ているな。母親は美術系の専門学校卒で、その頃、スポーツ新聞社でバイトしていたし、母方の祖母(故人)は映画館でウグイス嬢みたいな仕事をしていたらしいから、自分がこんな仕事に就くことに対しては何とも思っていなかったが、父親(故人)は時々、嫌味言ってきたからな…。飲みの場が多い仕事が嫌いだったらしい…。

 

それにしても、ブルース・スプリングスティーンの影響を受けた少年の話なのに、この映画で最初にかかる曲がペット・ショップ・ボーイズの「哀しみの天使」だというのには驚いた…。

まぁ、作品の舞台となった1987年の英国を代表するヒット曲だし、個人的には彼等の曲の中で一番好きだし、デレク・ジャーマンが手がけたミュージック・ビデオも傑作だから文句はないが。

それから、ティファニーの「ふたりの世界」なんて世界的大ヒット曲や、リアルタイムで当時のチャートを追いかけていた人以外には忘れられているようなM/A/R/R/S「パンプ・アップ・ザ・ヴォリューム」といった1987年のヒット曲も色々と使われている。

でも、カッティング・クルーの「愛に抱かれた夜」やレヴェル42 の「レッスンズ・イン・ラヴ」は米国では87年のヒット曲だが、英国では86年のヒット曲なのだが…。

あと、a-haの「シャイン・オン・TV」なんかは、85年末から86年初頭のヒット曲だしね。まぁ、感覚的な87年の音楽としては間違ってはいないけれどね。

f:id:takaoharada:20200704152749j:plain

 そして、ボスの曲はどれも効果的に使われている。時々、リリック・ビデオみたいに歌詞が出てくる演出も面白かった。

ただ、1987年の話なのに、ボスが父親世代が聞く古いアーティスト扱いされていたのは納得いかないな…。

ボスは87年に『トンネル・オブ・ラヴ』という素晴らしいアルバムを発表し、このアルバムからは「ブリリアント・ディスガイズ」という全米トップ5ヒットも生まれているのに!しかも、87年を舞台にした映画なのに、このアルバムからの曲が1曲も使われていないのは納得がいかない。

まぁ、本作の主人公のモデルとなった人も、本作の監督も、このアルバムがそんなに好きではないのかな?

そういえば、原題はボスの曲からとって「BLINDED BY THE LIGHT」なのに、邦題は「カセットテープ・ダイアリーズ」ってのはクソだな!ボスの曲と同じ「光で目もくらみ」という邦題にするか、原題のカタカナ表記「ブラインデッド・バイ・ザ・ライト」。あるいは、この曲の日本での知名度が低いという判断だったとするなら「ハングリー・ハート」でも「ダンシン・イン・ザ・ダーク」でも「明日なき暴走」でもいいだろ!映画の終わり方も「明日なき暴走」の原題「BORN TO RUN」って感じで良かったしね。

 

ところで、本作の終盤には排外主義者がデモを起こし移民と衝突するシーンが出てくるが、これを見ると嫌でも、最近のBlack Lives Matter絡みのデモを想起してしまう。

本作では、英国と違い、移民にもチャンスがある米国と描かれていたが、その幻想も消えてしまったということなのだろうか?

 

とりあえず、1987年に16歳になった人間には十分楽しめる映画だった。

f:id:takaoharada:20200704152931j:plain

 ≪追記≫

本当は今日はオープンしたばかりのTOHOシネマズ池袋に行こうと思ったのだが、池袋地区のコロナ感染に関するニュースを聞くと、あまり近づきたくないので、別の地区で映画を見ることにした。というか、当面、新宿・池袋・渋谷あたりでの映画鑑賞は避けたい気もするな。

 

というわけで、久々にTOHOシネマズ日本橋で映画を見た。天井破損騒動が起きて以来、ここには全然行っていなかったが、調べてみたら、前回ここを訪れたのは2018年秋だったらしい。その時は「アニゴジ」を見たようだ。

f:id:takaoharada:20200704153032j:plain

そして、場内で「上映中に彼氏に他の観客の前を横切らせてポップコーンとコーラを買いに行かせるクソ彼女」を描いたTOHOシネマズのCMを久々に見た。多くの映画マニアはこのCMを見て怒りを覚えているが、緊急事態宣言解除後初めて見ると、なんか懐かしい感じかした…。