自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

アルプススタンドのはしの方

野球映画なのに、グラウンドは全く映らない。というか、アルプススタンドと通路の様子しか描かれていない。でも、きちんと試合の流れが分かるという不思議な作品だった。

本作は舞台作品の映画化だが、舞台であればアルプススタンドと通路だけでも話は成立するが、映像作品でそれをやったら、ショボくなるだけではと見る前は若干の不安もあった。しかし、きちんと、ミニシアターでかかる邦画レベルの画にはなっていて感心した。

メガホンを撮った城定秀夫監督はピンク映画やVシネでも知られている人なので、本作はそういう作品のフォーマットに近い上映時間が1時間15分程度の短い作品だが、それで1900円の入場料はちょっと高いなとは思ったりもした。でも、上映館のシネクイントは新型コロナウイルスの影響で経営が厳しいらしいので、お布施と思えばいいか…。

不満点としては、野球部在籍経験者が、県大会を県予選と呼ぶのはどうかとも思った。まぁ、一般人の多くは県大会を甲子園の予選だと思っているので仕方ないのだろうが。

そうしたマイナスポイントもあることはあるが、全体としては良く出来ていたと思う。シチュエーション限定作品なのに安っぽさを感じないし、感動するし、笑えるしね。

スクールカーストでいえば、低層もしくはピラミッドにすら組み入れてもらえないようなアルプススタンドのはしで応援する4人と、4人から見ればイケてる組の女子、そして、ウザい教師。この6人のメイン・キャラがみんないいんだよね。個人的にはイケてる組女子が可愛いと思った。

そして、何よりも本作は、“人生は三振だらけ。ホームランやヒットなんて放つのは難しい。でも、送りバントを決めるチャンスはあるんじゃないの?”という、“送りバントの人生”を目指すことになる一般人の生き様を描いていることが素晴らしいんだよね。しかも、顔は全く出てこないが、送りバントを決めることでしか活躍のチャンスを与えられなかった選手を巡るオチも最高!

 

それにしても、これを見ると高校時代のことを思い出すな。自分もどちらかといえば、アルプススタンドのはしの方で観戦する組だったしね。でも、高校時代の同学年の連中で、この年齢になるまでに自分より面白い経験をできたのはいるかって言われると、多分、1人か2人しかいないんじゃないかなって思う。少なくとも、自分の知る限りでは一応、メジャーレーベルからCDをリリースしたバンドのメンバーになった彼くらいしか思い浮かばないしね。つまり、高校時代にイケてる組だった奴なんて社会人になったらあっという間に落ちぶれるんだから気にするな!
結局、他人より面白い経験ができるのは“送りバント”をたまにでもいいから成功させられた人間なんだよってことを教えてくれる素晴らしい作品だった。

というか、マスコミや映画業界、芸能界などクリエイティブ職に就いている人間の圧倒的多数はそういう人たちだよね…。

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