自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

糸 ※ネタバレ含む

菅田将暉小松菜奈をはじめ、斎藤工榮倉奈々二階堂ふみ松重豊倍賞美津子などキャスト陣には個性派や演技派が揃っているし、メガホンをとっているのは瀬々敬久監督。
でも、キー局幹事・東宝配給の拡大公開作品として作ると、毒にも薬もならない映画になってしまうのね…というのが正直な感想かな。
つまらなくはないし、感動もするし、笑えるシーンもあるんだけれど、キャスト・スタッフの顔ぶれを考えると物足りないって感じかな…。

この作品が物足りなく感じる要因は大きくわけて3つあると思う。
①平成振り返り企画という構成によって生じた問題
中島みゆきが平成を代表するアーティストなのかという問題
菅田将暉小松菜奈恋愛報道問題

①については、平成終了・令和開始から1年というタイミングの今年のGWに公開予定だったが、コロナの影響で夏の終わりに公開になってしまったので、何故、この内容という感じが増したが、そもそも、GWでも、この内容で公開するのはおかしかったと思う。本来なら、平成から令和に変わる去年のGWに公開すべきだったと思う。
まぁ、映画の撮影はだいたい公開の1年くらい前に行っている。そして、平成の次の元号が令和であるということが明かされたのは令和が始まるわずか1ヵ月前だった。だから、平成が終わる1年前に撮影なんてできなかったという事情は分かるが、だったら、無理に映画にせず、テレビのスペシャルドラマで良かったんじゃないかなという気もする。それの方が撮影から放送までの期間は短く済み、タイムリーなうちに世に出せたのではと思う。というか、TBS作品なんだから、それで良かったのでは?

そして、作品自体も全然、平成を振り返っていない。主人公たちが平成元年生まれということになってはいるが、実際のストーリーは平成13年から始まるからね。全然、振り返っていない。平成の期間に国内で起きた大きな出来事(事件・事故・災害・ブームなど)で作中で取り上げられたのは、東日本大震災だけ。米同時多発テロリーマンショックオバマ大統領就任は出てくるのに、国内ネタはこれだけで平成振り返りというのは企画破綻もいいところ!

それに、海外に逃げていたヒロインが、日本でやり直そうと思ったきっかけの一つがシンガポールで食べたまずいかつ丼というのも意味不明。わざわざ、海外をdisる必要はないよね。シンガポール滞在中に東日本大震災が発生したのだから素直に、大震災をきっかけに帰国を決意する構成にすれば良かったのに。


②については、中島みゆきは平成の期間でいえば(昭和の時には普通だった昭和何十年代みたいな言い方が平成になってからはされなくなったので、便宜上、西暦にして言及するが)、90年代、00年代にオリコン1位となるシングルを出しているが、10年代はソングライターとしての1位はあるが、アーティストとしてはないんだよね。それを果たして、平成を代表するアーティストと言っていいのかという気もする。

サザンオールスターズは、平成元年の89年(つまり、80年代)に「さよならベイビー」で初のオリコン1位を獲得して以降、90年代、00年代、10年代にもオリコン1位のシングルを生み出しているし、70年代デビューのアーティストでありながら、10年代に「東京VICTORY」、「ピースとハイライト」といった新たな代表曲を生み出している。さらに、平成の期間にサザンがリリースしたCDシングルは全てオリコンのトップ10入りしている。それどころか、桑田佳祐のソロも全てトップ10入りしている。
どうせ、平成の出来事として東日本大震災しか描く気がないのだったら、「TSUNAMI」というタイトルでサザンの楽曲をモチーフに作れば良かったのに…。まぁ、サザンはコロナ禍に行った一部収益を寄付する無配信ライブでも「TSUNAMI」をやらなかったから許可は出なかったかもしれないが。
というか、平成を代表するアーティストなら中島みゆきやサザンみたいなニューミュージックという言葉があった時代にデビューしたアーティストではなく、B'zやドリカムでいいんじゃないのかな?

そもそも、中島みゆきの曲の使い方も中途半端。
映画のタイトルにもなっている「糸」が本人のバージョンと、主演の菅田のバージョンで流れる以外は、「ファイト!」がキャストによるカラオケ歌唱シーンで使用されているのと、「時代」が中国語のカバー・バージョンでかかるだけ。
たった3曲で平成の中島みゆきを振り返るのって雑すぎでしょ!
しかも、「時代」と「ファイト!」は平成にシングルとしてヒットしているとはいえ、楽曲自体は昭和の時代に発表されたものだからね。
平成にリリースされた中島みゆき楽曲だったら、「空と君のあいだに」とか、「地上の星」、「麦の唄」、「浅い眠り」などといったヒット曲があったのに無視なの?
タイアップとなった作品のイメージが強すぎるからというのだったら、「時代」や「ファイト!」だって使うのを避けるべきだし、本当、平成振り返りというコンセプト同様、中島みゆきで平成を彩るというのも不発なんだよね。余談ですが、自分の好きな中島みゆき楽曲は80年代の「悪女」です。

③については、コロナ禍になる前は、菅田将暉と小松菜の恋愛報道がやたらと出ていて、過去の映画やCMでの共演を見れば、「まぁ、そうだろうね」って感じだったが、新たに公開日程が決まってからは2人の恋愛報道がなくなり、ネット記事なども菅田が小松菜以外の女性に対する憧れとか、過去の恋愛について語っているものばかりで、すごく不自然なんだけれどな…。
結局、コレって、昔から古今東西の芸能界がやってきた映画やドラマの話題作りのためにメインの男優と女優が恋仲だとアピールする作戦だったの?
コロナ禍で濃厚接触アピールだとイメージが良くないから、その戦略はやめたのか?
まぁ、ブルース・ウィリスデミ・ムーアが共演した「愛を殺さないで」みたいに恋愛関係のウワサのある2人、あるいは、ラブラブ真っ最中の2人が共演した映画って、トホホ映画になることが多いからな…。
本作はトホホ一歩手前のところで踏みとどまっているから、それは良しとするか。

それにしても、小松菜って、キレイにしたあいみょんみたいによく言われるけれど、菅田って、小松菜とは恋のウワサがあり、あいみょんとは友人なんだから、ああいうルックスが好みなんだろな。ちなみに自分は小松菜もあいみょんも可愛いと思っている。


とりあえず、菅田将暉好きな女性、小松菜好きな男(自分のことか…)なら見て損することはないと思う。
あと、中学生バージョンのアオイちゃん可愛い!

 


以下、ネタバレ


菅田と小松菜の2人がやっと結ばれるシーンで、菅田が小松菜演じるヒロインの名前を大人になってからは名字で呼んでいたのを、やっと、下の名前で呼ぶようになった場面は良かった。
でも、このシーンより感動したのって、中学生時代のアオイの面倒を見ていたオバちゃんとアオイの再会シーンだと思うのだが、恋愛をウリにした作品なのに、それでいいのか?
あと、主人公の妻、その父、そして、主人公夫妻の間に生まれた娘の親子3代が揃って、迷っている主人公にドングリを投げつけるのは良かった。

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