自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

TENET テネット(ネタバレを含む)

この手の作品はなるべく最低限の知識以外はシャットアウトして鑑賞した方がいいと思う。だからといって、見た作品に関する意見を誰にも伝えられないというのは苦痛でもある。見た人であれば、他の鑑賞者の意見を聞いてみたいと思うだろうし、自分もそう思う。だから、見出しにネタバレを含むと書いた上で意見を述べることにした。これで、“ネタバレしやがって!ふざけんな!”と言われても、それはネタバレと書いてあるものをわざわざクリックした人間の責任になるしね。

 

もう10年前の作品になるので、ふれてもいいとは思うが、同じクリストファー・ノーラン監督の「インセプション」のラストのコマに関する情報を見る前に見聞きしていたら、多分、ぶち切れていたと思う。自分は見た直後にネタバレありのレビューを見て、なるほどねと思ったクチだったので何とか助かったが。そういう感情は、同じノーラン監督作品の「インターステラー」でも起こると思う。前作「ダンケルク」は実話が基になっているから、そういう感情は起きないが…。そして、本作は確実にネタバレ厳禁系の作品になっている。

 

そんな中、SNSなどで本作についての映画ファンの意見を見てみると、やたらと否定的な声が多いんだよね…。

インセプション」や「インターステラー」ではノーラン批判する奴は映画を見る目がない奴扱いされるほど、ノーラン監督をマンセーする雰囲気が多数派だった。

でも、前作「ダンケルク」あたりから、やたらとノーラン批判が増えたんだよね。ツイッターでノーランと検索すると一緒に“嫌い”というワードが出てくるほどだし。何か今度はノーラン批判するのが映画通みたいな風潮になっていないか?単なる逆張りにしか思えないんだけれどね。

 

まぁ、ノーラン擁護派の自分でも、2010年以降のノーラン監督作品でシリーズものを除いた作品(「インセプション」、「インターステラー」、「ダンケルク」、そして本作)の中ではコレが一番出来が悪いとは思うけれどね。

インターステラー」がアカデミー作品賞にノミネートされなかったのは納得いかないけれど、本作はノミネートには値しないと思うしね。まぁ、ウィズ・コロナ時代になって初めて公開されたハリウッド大作という理由だけでノミネートされてしまう可能性もあるかもしれないが、環境保護を願う人物がテロ行為を行うような話だから、リベラル思想の蔓延しているハリウッドでは自分たちが悪役にされたと思いこみ、本作を無視する可能性も高いかもしれないな。

 

それにしても、本作ではウクライナでテロ行為が起こるという場面から始まるけれど、今のハリウッドでは旧ソビエト連邦系を悪役にするしかないって感じになってしまったのかな?冷戦時代に戻ってしまったな…。

ひと昔前の悪役といえば、中南米系の時があったり、イスラム系だったり、アジア系だったりとしたけれど、トランプ政権の逆張りをしたいというだけの今の偏ったリベラル思想のハリウッドでは、そういう非白人は悪役にできなくなってしまったし、ましてや、中国はハリウッドを牛耳る大スポンサー様だから、逆においしい場面を与えなくてはいけなくなってしまったしね…。

そして、本作の悪役を演じたケネス・ブラナーの見た目に驚いてしまった!あんなにマッチョなイメージなかったよな…。ぶっちゃけ、痩せたC.W.ニコルにしか見えない…。しかも、それで末期がんの説定なんだから驚いてしまう…。

 

それはさておき、本作を批判している人の中には前半が画になるシーンをくっつけただけでストーリーがないという意見が多い。確かにそうだと思う。それから、タイムトラベルもの、タイムリープものなどの肝とも言えるパラドックスを否定している箇所もあるので、SF好きはそれだけで本作を否定したくなるのも理解できる。

でも、後半になると、ストーリー展開上で抱いた違和感やSF設定の否定に対する謎解きがされるんだよね。

 

つまり、この映画って、「カメラを止めるな!」なんだよね。正確に言えば、真ん中の打ち合わせパートというか、日常パートというか、そういう部分のない「カメ止め」。もっと、厳密に言えば、違和感だらけの最初が「カメ止め」では劇中劇だったけれど、本作では違和感部分にも謎解き部分のキャラがそのまま登場しているっていう感じかな。ついでに言えば、金のかかっている「カメ止め」。

そして、現在・過去・未来の同一キャラが混在するという点で言えば、「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」と同じ視線と言えなくもない。さらに、未来を良くするために過去の人物やモノなどを抹消しようとするのは「ターミネーター」シリーズだしね。

 

極力CGを避けて、時間と金をかけてリアルに撮影しただけで、要は過去作と変わらないんだよね。過去作で頻繁に使われたパラドックスとかを否定しておきながらね。だから、本作を否定する人の気持ちも分からないではないんだけれどね。

 

そういえば、本作のエンド・クレジットって大作にしては短めだよな。トラヴィス・スコットの主題歌(ノーラン監督作品に主題歌が付くというのは驚き!)とスコア曲(ノーラン監督作品でおなじみのハンス・ジマーの作品風だけれど違うんだよな今回は…)の2曲が流れるだけだからな…。結局、CGって、レンダリングだなんだで時間がかかるから、直接な作業時間は減っても、労働時間がきっちり守られているハリウッドではレンダリング待ち対応のスタッフもシフトで配置しなくてはいけないってことで人数が増えるんだろうなというのが推測できるな…。

 

それにしても、韓国映画でもない洋画。しかも、ミニシアター系でないアメリカ映画で、アニメーションでもドキュメンタリーでもない作品。というか、ハリウッド大作を見たの久しぶりだな。そして、上映時間2時間半レベルの長尺ものを見たのは緊急事態宣言解除後初めてだ。

f:id:takaoharada:20200919193149j:plain