自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編

自分はTVシリーズ序盤をまとめて先行上映した作品と、この劇場版しか「鬼滅の刃」は見ていないし、原作コミックも読んでいない。熱心なファンの中には、劇場版を批判していいのは、TVシリーズ全話と原作コミック全話を読んだ人間だけだと思っている人もいるかもしれない。でも、映画というのは、原作を読んでいなくても、TV版を見ていなくても、そして、シリーズものやスピンオフであれば、過去作を見ていなくても、その映画1本だけで批評の対象になるものだということを理解していただきたい。その上で話を進めさせていただきます。

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以前から思っていたのだが、「鬼滅」が好きだという人って、他のアニメやコミック、アニソンなどにはほとんど興味を示さない人が多いんだよね。
ここ四半世紀くらいの間にブームになったアニメであれば、「エヴァ」にしろ、「ハルヒ」にしろ、「まどマギ」にしろ、その作品にハマったことをきっかけにして、アニメ好きになる人とか、あるいは、それまで、アニメ界隈から離れていた人がそういった作品をきっかけにして、アニオタの世界に戻ってきたりというのがあった。
ラブライブ!」などのアイドルものや、「けいおん」、「バンドリ 」などのバンドものでも、そういう作品にハマった人が同じジャンルの別作品に手を付けたりというのがあったが、「鬼滅」ではそういう現象がほとんど起きていない。

 

アニソン界隈で見てみても、LiSAが歌うTVシリーズの主題歌「紅蓮華」はいまだにチャート上位に入るほどの記録的大ヒットとなっているが、この曲の5ヵ月後にリリースされたCDシングルでアニメ曲の「unlasting」はアニメ好き・アニソン好きが注目しただけで、あっという間にチャート圏外に行ってしまった。今年の夏にリリースされた配信シングル「愛錠」や「マコトシヤカ」はアニメ系タイアップでない楽曲ということもあり、アニソン好きの反応も薄かった。「まどマギ」でいえば、KalafinaClariSのファンが増えたが、「鬼滅」に関しては、「鬼滅」の楽曲が好きなだけで、LiSAのファンが一気に増えたという感じはしないんだよね。で、今回、LiSAが劇場版の主題歌「炎」をリリースしたらヒットしているわけで、結局、「鬼滅」の曲を歌うLiSAにしか興味が持たれていない。

 

そういう、オタク的なファンを生まないブームなんだなというのを今回の劇場版を見にやって来た観客たちの様子を見て改めて再確認した。

一応、「鬼滅」は深夜アニメにカテゴライズされる作品だが、通常、深夜アニメの劇場版の上映時には、本編上映開始後に入場する客なんて、ほとんどいないが、今回はゾロゾロと遅れて入ってくるのがいた。
また、特典目当てで2周目、3周目とかいう人を除けば、通常は上映中にトイレなどで席を立つ人もほとんどいない。ところが、今回はこういう人たちもたくさんいた。

さらに、CM・予告タイムでは「エヴァ」の新しい予告が流れたというのに、場内はノーリアクションに近い状態だった。
要は、家でながら見しているような人たちで、なおかつ、他のアニメにはさほど興味がない人が多いということ。

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CM・予告タイムといえば、他の上映作品では見ないようなCMもたくさん流れていた。コロナ禍になってから、これだけ色々な企業のCMが上映される光景を見るのって初めてだ。それから、予告も通常より上映本数が多かった。各企業にとっても、映画館にとっても、それだけ、「鬼滅」は経済効果の大きいコンテンツってことなのかな?

 

ただ、いくら経済効果が期待されるからって、1つのシネコンで1日に20回とか30回、場合によっては40回以上も上映するのはどうかと思う。他の上映作品、特に公開2週目以降の作品の上映機会が減らされているわけで、「鬼滅」に興味ない映画ファンの鑑賞機会を奪っているわけだしね。まぁ、20〜40回上映して、全ての回が満席になるわけはないのだが、それでも、公開2週目の作品が20席くらいしか埋まらないなら、「鬼滅」をかけた方が客が入るという判断なんだろうね。

 

それから、市松模様形式の座席販売をやめ、全席販売にしている劇場が圧倒的多数なのもどうかなと思う。いくら、座席でのフード類の飲食を禁止しているとはいえ、混雑状態では感染対策に対する不安があるよね。まぁ、コアな映画ファンやアニオタではないライト層が中心だから、ドリンクを買ってくれる客が多い。コロナ禍で営業不振だった分を少しでも取り戻す絶好の機会と考えているのだろう。でも、2週間後の新型コロナウイルス感染者数が増加傾向になっていたとしたら、完全に「鬼滅」のせいだよね。Go To トラベルの対象に東京を含めた途端、感染者数は増えたんだから、これだけ、客が密集する映画館はいくら各スクリーン内は換気されているといっても、ロビーとかの混雑を考えたら危ないと思うな。

 

そして、経済効果ついでで言うと、NHKやキー局が「鬼滅」に群がり、LiSAや鬼頭明里などを次から次へと自局の番組に出演させているのも腹立つよね。
「鬼滅」というアニメを世に出したのはローカル局やBS局だし、さらに一気にファンを増やしたのは配信サービスなのに、NHKやキー局の連中は、自分たちが人気コンテンツに協力しているみたいなアピールしているもんな…。まぁ、アーティストや声優にとってはローカル局よりNHKやキー局の方がギャラがいいし、製作者側としても、NHKやキー局から映像の使用料とか、作品の放送権料を取れるから、ボランティアじゃないし、仕方ないよねって感じではあるが。あと、NHKやキー局って言ったけれど、特に酷いのはNHK、日テレ、CXかな。テレ朝、TBS、テレ東はどちらかというと、自社コンテンツを放出する方が多いかな。「進撃の巨人」がNHKのコンテンツぶっているの腹立つよね…。

 

というわけで、色々と書いたことをまとめると、「鬼滅の刃」というコンテンツは深夜アニメ扱いで世に出たけれど、結局、王道の少年誌漫画のアニメ化作品の支持のされ方なんだよねってこと。今では、夕食時間に放送されるアニメって、ほとんどなくなってしまったけれど、昔はたくさんあった。そういう作品の多くは、ジャンプ、マガジン、サンデーという少年誌から生まれたコンテンツで、そういうアニメを見る時ってのは大抵、夕食を取りながら見ていたんだよね。つまり、ながら見。だから、いくらそのアニメが好きでも、その作品のマニアやオタクにはならない。それと同じで、「鬼滅」も配信サービスなどでながら見していた人がハマったと言っているだけ。要は、少年誌原作アニメについて、翌日の学校で同級生と面白かったねと言い合うような程度のハマり方ってことかな。まぁ、「鬼滅」だって、よく考えたら、ジャンプ原作アニメなわけだしね。
深夜アニメという言葉に惑わされて、“何故、ブームに?”みたいに考えてしまう人が多いが、要は「ワンピース」や「コナン」と同じなんだよね。友達や彼氏彼女との共通の話題作りのために見る作品なんだよ。だから、他のアニメにハマる人が少ないんじゃないのかな?勿論、面白いと思っているとは思うけれどね。

 

ところで、今回の作品自体に関してほとんど語っていなかったが、まぁ、劇場版と銘打つほどの映像的クオリティの作品だとは思わないし、正直、間延びする部分も多い。でも、「ワンピース」や「ドラゴンボール」の映画よりは映画になっていたと思う。「鬼滅」好きが言うほど大感動とは思わないが、ちょっとウルっときたしね。それから、前半は「インセプション」かと思った…。

 

《追記》今回の主題歌の「炎」、何か80年代から90年代初頭にかけて、産業ロックとかAORと日本でカテゴライズされたようなアーティストや、当時人気を集めたハード・ロック/ヘヴィ・メタル系アーティストが、当時よくリリースしていたパワー・バラッドみたいな感じがするな…。
あるいは、デイヴィッド・フォスターがプロデュースした松田聖子の「抱いて…」に通じるものがあると言ってもいいが。
つまり、この曲、かなり好きってことかな…。

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