自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒

イカ作品を劇場に見に行って座席が半分以上埋まっていたというのは初めての経験だ。やっと、日本でもライカというスタジオがイルミネーションやドリームワークス、アードマンのようにブランドとして映画ファン、アニメファンに認知されるようになったということなのかな?前作「KUBO」が日本を題材にした作品ということで話題になったことをきっかけにライカ自体も注目されるようになったってことなのかな?

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それにしても、ライカの作品って、見るたびにストップ・モーション・アニメーションというよりかはCGアニメーションに近いよなとは思う。アードマンの作品ならCGを使っていても、クレイ・アニメーションだとハッキリと分かるんだけれどね。

 

そして、主人公のライオネルの造形はどう見ても声をあてているヒュー・ジャックマンにしか見えないよねって感じだった。基本はいい人なんだろうけれど、金や名声のためなら何でもするようなところは、ミュージカル映画グレイテスト・ショーマン」でヒュー様が演じた主人公と通じるものがあるしね。冒頭で助手がネッシーに飲み込まれた時は、“まさか、こいつ見捨てるのか?”って思ったが、一応、その後、救出に向かったのは救いだった。

 

本作はゴールデン・グローブ賞のアニメーション映画賞を受賞したが、おそらく、ストップ・モーション・アニメーションの技術のみならず、マイノリティ問題を描いていることも評価されているんだと思う。

 

冒険というのは白人から見てのものであり、それは先住民にとっては侵略でしかないというメッセージを含んでいる。また、主人公がメンバーに入れてもらいたがっていたクラブは典型的な白人男性のためのものだし、進化論や地動説を否定している。なので、こうした保守思想の白人男性批判=トランプ政権やその支持者の批判というのは昨今の賞レース向きだとは思う。

 

ただ、マイノリティ描写が中途半端と思える点も多い。だから、ゴールデン・グローブ賞では受賞できても、ゴールデン・グローブ賞以上に反トランプの機運が高いアカデミー賞の長編アニメーション賞ではノミネートにとどまったのではないかと思う。ゴールデン・グローブ賞は外国人記者が選ぶ賞だからアカデミー賞とはちょっと違うしね。

 

主人公はビッグフットとともに、ビッグフットの親類であるヒマラヤのイエティの一族を訪ねるが、この一族が感じの悪い連中だったりする。まさにマイノリティの中にも差別があるというのをリアルに描いているのもアカデミー賞受賞には至らなかった要因ではないかと思う。

これって、米国の黒人が“自分たちは差別されている”と主張しながら、アジア系やヒスパニック、ネイティブ・アメリカンを見下し差別している構図そのものだからね。そりゃ、黒人批判に繋がる要素は反トランプのハリウッドでは評価できないよねとは思った。

また、アジア人キャラクターの描写も典型的な“何を考えているか分からない”“英語が分からない”“ゲテモノ食い”という扱いだから、そりゃ、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」をアジア映画初の作品賞受賞作に選んだ第92回アカデミー賞の授賞式の場では評価できないよねとも思った。

あと、ビッグフットにせっかく名前をつけたのに、便宜上の呼び名“ミスター・リンク”呼びに戻ってしまったりする場面が多いのも理解不能。仲違いした時だけとか、照れている時だけとか、説明があればまだしも、何の説明もなく呼び方が変わったりするのは、単なる脚本上のミスにしか見えない。

それから、今時珍しいくらいに悪役が死んでしまうのもどうなんだろうかと思ったりもした。ボスや実行犯はともかく、小役人みたいな者まで死なせてしまうのは何だかなという気がする。

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 と、批判的なことも書いたりしてみたが、全体としては、王道娯楽映画という感じでもあるし、主人公・ビッグフット・主人公の元カノの3人組はキャラが立っているので、続編は期待できそうだなという気もする。ただ、ライカ作品はこれまで続編ものをやっていなかったので、続編をやるようになると、ピクサーのように当たり外れが出るようになってしまいそうな気もする。