自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

フード・ラック!食運

多分、土屋太鳳が出ていなければ、この映画を見ることはなかったと思う。予告編を見てもスベっている感は全開で、いかにもつまらない邦画コメディの典型って感じに見えたし。というか、この「フード・ラック!食運」というタイトルもそうだし、飲食店の話というのもそうだが、コレって、台湾映画「祝宴!シェフ」のパクリみたいなものでは?構想5年らしいが、「祝宴!」の日本公開が2014年11月だから、同作を見て(もしかしたらタイトルを知っているだけで見ていないかもしれないが)影響を受けた可能性は高いのではないかと思ったりもした。

なので全く期待しないで鑑賞に臨んだ。そのおかげかどうかは知らないが、意外と悪くないじゃん!という感想を抱くことができた。

 

とはいえ、映画としては全然、ほめられたものではなくツッコミどころ満載だが…。

主人公の母親が経営する焼肉店の閉店の貼り紙が出されてから18年後の話となっているが、途中で店内のシーンで成長した主人公が母親と喧嘩して家出する場面があったのは何?そして、母親が10年ほど闘病しているがそれを主人公は知らなかったということだが、じゃ、あの家出シーンは少なくとも10年以上前の話なの?じゃ、あの張り紙は何?ってなる。そして、闘病していたのに、ずっと、店をいつでも再開できる状態にしていたというのも謎だ。

 

それから、焼肉の話だったはずなのに、途中から漬け物の話になっていたのは意味不明だ!しかも、がんで闘病している母親に、母親の味を再現した漬け物を食べさせたいとか意味不明の極みだ!

 

ついでにいうと、この母親は名料理人なのに落ちたものをもったいないと子どもに食べさせるような人物なのも謎設定だな。そりゃ、食中毒の疑いで廃業させられるのも当然だよ。

 

そういえば、食べログ批判みたいな描写があったのに、この映画に食べログが協力しているのは本編以上に笑えた。もしかすると、脚本読まずにタイアップをOKしたのか?

まぁ、この映画を見れば、焼肉なり漬け物なりを食べたくなるから、飯テロ映画として飲食業界への貢献という意味では、食べログなどのサイトが自民党の手先として中抜き要員になっているGo Toなんかより遥かに経済効果はあると思う。

 

それから、バラエティ風演出もなんだかなって感じだった…。まぁ、寺門ジモンが原作・監督だから仕方ないのだろうが、でも、食事のシーンは毎回、ポーズ付きで“いただきます”を言うし、その“実食”(正しい言葉は試食なのに、バラエティ番組のおかげで、カメラの前など人前で食べることを実食と呼ぶのが当たり前になったのはバラエティの悪影響だよな…)シーンの前後には、いかにもフード・バトル系の番組でかかりそうな音楽が鳴っているし、商品の説明スーパーやコメントのフォロー・スーパーが入るシーンもある。さらに、同ポジ編集も多い。要はバラエティ番組やワイドショーで出演者の面白いところだけをつまんだ編集の仕方をしている。正直言って、個人的にはこういうテレビ的な演出・編集は好きではない。なので、映画好きに評価されるような映画ではないと断言できると思う。あと、編集長が土屋太鳳演じる竹中を「たけなか君」と呼んだり、「たけちゅう君」と呼んだりするのも全然意味がない。

 

でも、本作ほど、土屋太鳳が可愛いく撮られている映画ってないのではと思う。彼女のファンは見て損はないのでは?

 

それにしても、ここ最近の土屋太鳳の落ちぶれた感ってすごいよな…。

日本アカデミー賞の新人賞に選ばれた2015年公開の「orange」あたりをブレイクの時期として、2018年の「春待つ僕ら」あたりまでの3年間くらいが全盛期だったのかな。

この期間は広瀬すずと双璧をなす存在だったし、広瀬すずは裏方スタッフ見下し発言でイメージは良くなかったから、世間的には土屋太鳳の方が好印象だったと思う。

それが逆転した要因の一つには、姉(土屋炎伽)がミス・ジャパンのグランプリに選ばれたこともあるのかもしれない。姉がグランプリになったのは明らかに妹の七光りを利用した話題作りと批判された辺りから、その姉だけでなく土屋太鳳本人に対するイメージ悪化にもつながったのだろうか?

でも、一番の要因は今では慣れたけれど、元々、あの声ではどんな演技をしてもクサい演技にしか見えないというのがあるのかもしれない。

「orange」から「春待つ僕ら」の期間には両作品以外にも、「青空エール」、「PとJK」、「兄に愛されすぎて困ってます」、「となりの怪物くん」といった、コミック原作の青春映画、いわゆるキラキラ映画に相次ぎ出演している。そして、この期間はキラキラ映画が乱発されるようになったので、興行的にハズレる作品も増えていった時期でもあったが、土屋太鳳出演のキラキラ映画には大コケした作品はないので、安心して任せられるといった存在になっていた。

でも、「8年越しの花嫁 奇跡の実話」とか「累-かさね-」といったシリアス系の作品だと、作品の出来不出来に関係なく、やはり、あの声は気になってしまうんだよね。

広瀬すずは、コミック原作映画にコンスタントに出演する一方で、助演として李相日の「怒り」や是枝裕和の「三度目の殺人」といった賞レース向きの作品にも出演し、コミック原作映画では見せないような演技を見せて演技力に対する評価を高めていった。

だが、土屋太鳳にはそういうチャンスがなかった。というか、あの声質では限界があるということなのだと思う。そして、そうこうしているうちに、年齢的にもキラキラ映画には無理のある年齢になってしまった。

だから、今回の「フード・ラック!食運」や来年公開予定の「哀愁しんでれら」、コロナの影響で公開延期になった「ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜」や「大怪獣のあとしまつ」といった、いかにもヒットしそうになさそうな映画にばかり出るようになってしまったんだろうなという気はする。

まぁ、微妙な内容の一応、非キラキラ映画「トリガール!」の時点で土屋太鳳人気の下降は感じてはいたけれどね。

 

 「orange」でブレイクして以降の出演映画で主演もしくはヒロイン役でないのは、「金メダル男」、「七つの会議」といったオールスター映画だけなので、ここは割り切って、広瀬すずみたいに助演でもコンスタントに出演していくべきだと思うんだよな…。

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