自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

ザ・プロム

 「マンマ・ミーア!」のメリル・ストリープ、「キャッツ」のジェームズ・コーデン、「ムーラン・ルージュ」のニコール・キッドマンというミュージカル映画経験者が揃っているのだから、歌やダンスの面での心配は全くない。そして、実際に見てみると、その期待以上に良く出来た作品だった。個人的には大好きな作品の部類に入る。

 

メリル・ストリープが珍しくキュートな恋愛模様を演じているのもいいし、ニコール・キッドマンが可愛いく見えるのなんて超久々!そして、まさか、ジェームズ・コーデンの演技を見て泣くことになるとは思わなかった!コレは傑作と言わざるをえない!

 

それにしても、本作のミュージカル・ナンバーの歌詞は良くできている。様々な戯曲やミュージカルから引用されていて、舞台やミュージカル映画が好きな人なら、それだけで満足できると思う。

それから、歌詞にしろ台詞にしろ、韻の踏み方が良くできている。まさかのバイオレート(違反する)とマスターベート(自慰する)で韻を踏んだり、アクティング(演技)とアクティビスト(活動家)をかけたりとか、本当うまい!

 

本作はLGBTQに対する差別反対を訴える作品なので、当然、賞レース向きだとは思う。ただ、LGBTQを差別する側に白人男性のみならず黒人やヒスパニック、女性などもいる。というか、一番の強敵は黒人女性だ。なので、どんなに、その人間が問題を起こしたとしても(例えば、警察官の過剰な取り締まりで命を落とした黒人の多くが犯罪やトラブルを起こしているとか、黒人差別反対デモに便乗して略奪行為を働くとか)、黒人批判をしてはいけない。それを批判すれば黒人差別主義者扱いにされてしまうという最近の米国の流れを見ると、本作は評価されないような気もする。

 

ところで、日本ではリベラルを名乗る人や同性愛者嫌いな自民党を批判するのが好きな勢力、左派メディアですら、LGBTQとは言わず、LGBTと言っているのなんなんだろうか?世界的に見れば、圧倒的にLGBTQという言い方が主流なのにね。結局、日本のリベラルの連中って、自民党を叩く道具として同性愛者差別問題を利用しているだけなんだろうね。

 

「ザ・プロム」同様、ネトフリ映画である「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」なんて、いかにも賞レース向きの傑作なのに、米国での批評が良くないのは、おそらく、民主党政権時代(クリントン政権)に暗鬱たる日々を送っている人々が描かれているからだと思う。偏ったリベラル思想が展開されている今のハリウッドでは、民主党政権は素晴らしいものだから批判してはいけない。

民主党批判につながりかねない「ヒルビリー・エレジー」はアンチ民主党=トランプ政権支持と受け止められているのではないかと思う。なので、「ザ・プロム」の評価も低くなる可能性はありそうだ。普通なら、同性愛者差別反対を訴える作品で、しかも、エンタメ界の内幕ものでもあるんだから賞レースを賑わせる作品になって然るべきなのにね…。こういう不安を抱いてしまうほど、今のハリウッドはおかしなポリコレが展開されているってことなんだよな…。

 

それはさておき、本作でジェームズ・コーデンが演じたゲイの舞台俳優は、高校生の頃にゲイであることを理由にいじめられていたという設定だが、リアルでも作り話でも、日本でも米国でも、芸能界とかマスコミって、本当、園児・児童・生徒・学生の頃に、いわゆるスクール・カーストで下層に位置していた人や、下手すりゃ、そのピラミッドにさえ入れてもらえなかった人、あるいは、明らかにいじめや差別を受けていた人が多いよね。

まぁ、スクール・カースト上位の連中のほとんどは、社会人になると落ちぶれるのが多いというのはあるが、それでも、芸能界やマスコミには恵まれた人生を歩み続けてきたカースト上位の連中も結構いる。でも、スクール・カースト時代とは違って、元・下層組と元・上位組の関係というのは、ほぼ同等なんだよね。つまり、芸能界やマスコミには、スクール時代に上位にゴマをすっていた中間層が入ってこないから、対等にやり合えるんだろうなとは思う。

自分のことでいえば、高校時代に区議会議員のバカ息子に因縁を吹っかけられ、こいつと対立したことを思い出す。サシでやり合えば圧倒的に、“売られたケンカは迷わず買い、しかも、何倍返しにもしてやり返す”という下町民の自分の方が激しいのは明白だったので、このバカ息子は、金魚の糞みたいな連中や、担任教師を仲間にして、自分をおとしいれようとしたんだよね。つまり、カースト上位の連中には自分一人では何もできないのが多い。逆に下層の人たちは何でも自分一人でできるからね。その辺の実力差が社会に出てから如実になるんだろうね。

 

なので、本作はそうしたスクール・カースト下層組経験者であれば、別に同性愛や人種に対する差別を受けていない人でも共感できるのではないかと思う。

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