自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

劇場版ポケットモンスター ココ

ここ最近のポケモン映画は、子どもではなく大人をターゲットにしているとよく言われている。確かにノスタルジックな路線のものや、泣ける作品などが目立つ。前作なんかは劇場版第1作のCG版リメイクだったし、懐古路線は強まっているのだろうとは思う。

そして、最近のファミリー向けとされるテレビアニメの劇場版にはその傾向の強い作品が多い。「クレしん」映画や、「SBM」の方のドラ映画みたいな路線に走っているのではないかという気がする。通常の2D版ドラ映画でリメイクが多かったり、たびたび、恐竜が題材になるのも、かつてのファンだった大人の観客にアピールする作戦なのだと思う。大人が子どもに見せたいと思う映画に思わせるってことなのかな。

 

鬼滅の刃」が記録的な大ヒットとなっている背景には子どもが好きだから子どもの付き添いで来たというエクスキューズを付けながら、実際には親が楽しんでいるケースが多い=入場者数が増えるというのもあると思うしね。だから、大人も見たいと思わせる要素は重要なのかもしれない。

 

あとは、意図的にファミリー向け・子ども向けを脱しているものもある。「コナン」映画が毎回、記録的といえるヒットを連発するようになったのは、ファミリー向け・子ども向けアニメ映画のイメージを脱し、腐女子向けアピールをするようになったからだと思う。

また、かつては「東映まんがまつり」や「東映アニメフェア」の中で公開されていた「ドラゴンボール」や「デジモン」、「ワンピース」なんかは、現在では完全にファミリー層以外の支持の方が上回っている。

 

一方、コロナ禍では、大人だけで積極的に映画館に行きにくいアニメ映画、たとえば、「プリキュア」なんかは例年より観客を大幅に減らしている。また、ドラ映画は大人の観客を意識して恐竜ネタを使い、声優にキムタクを起用した通常2D版も、“ドラ泣き”を宣伝文句にした「SBM」版の続編も前作より大幅に成績を落としてしまった。つまり、中途半端な大人向けアピールでは大人の観客がコロナ禍の映画館に、巻き添えにされた子どもを連れていけるほどの価値はなかったってことなんだろうね。

あと、「ドラえもん」に関しては、地上波がアニメの放送時間をゴールデンから追いやってしまったから、子どもにとっては“オワコン(死語かな)”に見えてしまい、2Dだろうと、CGだろうとドラ映画を見るのはダサいとなってしまっているような気もするな。

逆に「鬼滅」は地上波では元々、ローカル局の深夜放送だから、子どもは最初からテレビでは見ていないし、配信やソフトで見ていたから、簡単にファンになれたのかもしれないなとも思う。

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そして、ポケモン映画だが、確かに大人路線は泣ける。でも、その一方で子どもは置き去りにされている感があるのも事実だった。

本作が「鬼滅」旋風が吹き荒れる中、週末トータルでは負けても瞬間風速的には「鬼滅」に勝った場面もあったというのは、大人が子どもに見せたい映画というイメージが強いからなのかなという気もする。実際、上映中にやたらとトイレに行ったと思われる子どもの姿が視界にチラッと入ってきたから、子どもにとっては、トイレをガマンするほど面白い映画ではなかったのかもしれない。

 

でも、大人から見ると、すごく泣ける映画だった。ぶっちゃけてしまえば、よくあるテンプレをくっつけただけだったが。あと、タイトルロール“ココ”のメイクはいかにもステレオタイプ的な先住民メイクだから、人種差別問題の視点でもどうかとは思ったが。

 

テンプレの例としては、以下のような要素があると思う。ひょんなことから捨て子を育てることになったシングル・ファーザーなんてのはチャールズ・チャップリンの超名作「キッド」だし、人間の捨て子がジャングルで異種の生き物に育てられるのは「ターザン」(というか、木々の中を駆け巡る描写にディズニー版「ターザン」そのものの構図もあった)、知能を持った人間でない種族が環境破壊をする人間どもに立ち向かう姿はリブート版「猿の惑星」3部作にしか見えない。また、ジャングルでの戦いを経てジャングルで大団円を迎える構成は「スター・ウォーズ/ジェダイの復讐(今は帰還って呼ばないといけないのか…)」を彷彿とさせる。あと、「ココ」ってタイトルはピクサー作品「リメンバー・ミー」の原題だしね。

 

という具合に本来のポケモンのターゲットである子どもではなく、その親や祖父母にアピールする要素だらけだから、大人はこの映画なら、コロナ禍の中でも、わざわざ、映画館に子どもを連れていく価値はあるって思ってしまうよね。しかも、基本テーマは親子の絆だからね。そりゃ、大人の観客は泣くよね!

 

ところで、本作の音楽は岡崎体育が担当しているが、これが驚くほど良曲ばかり。普段の“どうだ!俺、面白いこと言っているだろ?”路線の曲はどうしても好きになれないが、今回の映画用の曲は本当、良い曲ばかりだ。それにしても、朝ドラ「おちょやん」では、○んでくれ!という感情しか抱けないクソ親父を演じているトータス松本が、この映画のラスト・シーンに流れる楽曲では、父と子の絆を感動的に歌っているんだから、なんだかなという感じだな。まぁ、「おちょやん」のトータスを○してやると思うのは、それだけ、トータスの演技がうまいってことなんだろうなとは思う。

 

演技といえば、相変わらず、ゲスト声優も巧者揃いだった。山寺宏一は、どうせ、裏の顔があるんでしょ?と思うようなキャラを演じさせたらピカイチだと思うし、本業でない声優でも、タイトルロールを演じた上白石萌歌は良かった。本当、上白石姉妹は声優仕事でもいい結果を出していると思う。あと、しょこたんは別格だな!彼女は声優と名乗っていいと思うな。本業でない人が声優を務めただけで、ガタガタ抜かす連中が多いけれど、さすがにしょこたんには文句を言えないでしょ。それでも言っているとしたら、単に自分は声優にしか興味のないくせに演技がどうのとか言っているだけの無知な奴と自ら言いふらしているだけだと思うな。

 

ところで、ポケモン映画って、東宝ロゴの後にCMが入るの意味不明だよな…。それから、ポケモン映画って、大人でも入場者特典くれるんだな…。

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