自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

第62回 輝く!日本レコード大賞

これほど、納得のいくレコ大(大賞)結果って滅多にない。レコ大発表の場面を中継番組で見て泣いたのは初めてだ!

おそらく、ほとんどの日本の音楽リスナーが納得する結果となったのって、サザンの「TSUNAMI」が受賞した2000年以来では?

まぁ、人によっては2004年のミスチルSign」を挙げる人もいるだろうけれど、洋楽好きにはミスチル嫌いが多いから、ここは満場一致とはならないからね。

 

EXILE一族や秋元系アイドルは基本、“何故、あんな連中が大賞なんだ”って思うアンチが多いし、あゆや倖田、西野カナあたりだって嫌いな人は多い。そもそも、EXILE一族やあゆ、倖田といったエイベックス系や、西野カナ、乃木坂といったソニー系の受賞が多いのはどう考えても、公平な審査には思えないしね。

セールスやラジオでのオンエア回数ではなく、あくまで芸術的審査を行っているという名目なんだから、同じアーティストが2年連続とか3年連続で受賞するなんて、普通はありえないんだよね。

グラミー賞では、日本レコード大賞の最高賞である日本レコード大賞に相当するレコード・オブ・ザ・イヤー(最優秀レコード賞)を2年連続で受賞したのはU2しかいない。それくらい、受賞は難しいものなんだよね。

 

よく、レコ大結果を批判する人は、“○○の方が売れているのに、何故、大賞じゃないんだ”とか“売れている○○が候補(レコ大の言い方では密室談合的な全員勝者の優秀賞受賞になっているが)にならないんだ”とか文句を言っているが、それは違うよと言いたい。

まぁ、明らかにEXILE一族が3年連続大賞受賞を2度も達成しているのは、芸術性もセールスも考慮されていない、単なる業界の力関係で選んでいるだけだと思うが。

 

2013年は、セールス面でも一般への知名度でも、楽曲が訴えるメッセージで見ても、AKB48の「恋チュン」が取るべきだと思ったが、まさかのEXILEだからね。一方で、2012年はそのAKBが「真夏のSounds good!」で受賞しているが、これは逆に大賞に値する曲ではないよね。単に売れただけでしょって思った。

 

それから、レコード大賞って呼び方が時代に合っていないなんて言う人がいるが、それは自分の無知をさらけ出しているだけだから、言うのをやめた方がいいと思うよ。レコードというのは、別にアナログ盤。洋楽好き向けに言うと、ヴァイナル(ビニール)盤のことだけを言うわけではないんだよね。カセットテープだろうとCDだろうとダウンロードだろうとストリーミングだろうと、録音された音源は全てレコードなんだよ。レコードの本来の意味は録音物なんだよね。

 

よく、日本の音楽好きがレコ大を批判するためにグラミー賞の名前を出すけれど、グラミー賞の最高賞の名称だって、レコード・オブ・ザ・イヤー(最優秀レコード賞)だからね。CDがほとんど流通していない米国ですら、CDより前の時代のアナログ盤の通称として使われることも多いレコードという名前を使っているんだよね。まぁ、ストリーミング時代になって欧米ではCDよりもアナログ盤の方が売れているなんて話もあるくらいだが。

それに、そもそも、グラミーって名前はグラモフォン(蓄音器)から来ているからね。レコードプレーヤーどころか、それよりも前の時代の蓄音器を名乗っているんだからね。

受賞結果や候補が納得いかない人の中には、批判する手段が持てる知識を振り絞ってもレコードという呼称しかないという人がいかに多いかが分かるよね。

 

まぁ、レコ大の選考過程や結果にクソなことが多いのは事実で、その多くは芸能事務所やレコード会社、マスコミによる密室での談合で決められていることに起因するのも確かなことではあるが。

 

ということで、本題の今年の大賞の話に戻ります。

 

まぁ、LiSA「炎」の大賞は、アニソンというだけで毛嫌いする人、自分の好きなジャンル、アーティストの受賞以外は文句を言う人を除けば、ほぼ全ての人が納得のいく結果だと思う。

過去の歴代大賞受賞曲の中には、あゆが歌ったアニメ主題歌「Dearest」もあるし、「おどるポンポコリン」は誰もがアニソンと認識していると思う。また、去年の受賞曲「パプリカ」のソングライターである米津玄師はアニソンと親和性の高いボカロと呼ばれるジャンルの出身者だ。

でも、今回のLiSAのようにアニソン歌手とカテゴライズされているアーティストによる大賞自体は初めてだ。なので、今回の大賞受賞は、アニソン歌手、アニソンにとって快挙と言っていいと思う。

 

まぁ、「鬼滅の刃」の異常なブームのおかげなんだろうけれどね。そのブームにより、レーベル側は、これまでマニア向けにDVD付きのCDを買わせるために、スペシャやエムオンなどの音楽専門チャンネルではMVをショート・バージョンと称した実際はワンコーラスで強制フェイドアウトする形でしかオンエアできないようにしていたが、ライト層に楽曲を広げるにはそんな商法は通用しないとの判断からLiSAのMVがフルで流れるようになったのは良いことだと思う。

 

ただ、余計なお世話かもしれないけれど、今後のLiSAが心配になってしまう。テレビ版の主題歌「紅蓮華」と劇場版の主題歌で今回の受賞曲である「炎」の間には「unlasting」というCDシングルがリリースされている。

しかし、この曲って、アニメやアニソンが好きな人以外にはほとんど知られていないし、「こむちゃ」みたいなアニソン専門を除いた一般のチャートからはあっという間に消えてしまった。

 

年明けには彼女が主題歌を担当した実写映画「夏への扉」が公開されるが、この予告で聞いた限り、その新曲は普通の邦楽に限りなく近い汎用型バラードなんだよね。「炎」は洋楽HR/HMのパワー・バラッドに近い(アニソンにはHR/HM的アレンジの楽曲が多い)、いわばアニソンマナーで作られた楽曲だった。でも、その実写映画の主題歌は予告で流れていた部分だけを聞くと、よくある売れ線邦楽のバラードなんだよね。こういう路線が続くと、従来のアニソン歌手としてのLiSAのファンは離れていくと思うな。

 

かといって、いかにもアニソンという曲ばかりをやっていたのでは、「鬼滅」でLiSAを知った層は興味を持ってくれない。それは、「unlasting」が一般層に浸透しなかったことで証明済み。

 

となると、Aimerのように時々、一般邦楽アーティストとコラボし、一般邦楽的な楽曲もやるけれど、軸足はアニソンに置いておくってのが最善の延命措置だとは思うが、果たして、今後、どうなるんだろうか?

 

高橋洋子みたいに、「エヴァ」関連楽曲以外は一般に全く知られていないみたいな存在にならないことを願うのみだ。

 

ここで、「炎」以外の大賞候補(公式側は全員勝者の“優秀賞受賞作品”という馴れ合い的、談合的な名称で呼んでいるが)を振り返ってみたい。

 

まぁ、「炎」でなければ、若者が大賞受賞で納得するのは、瑛人「香水」か、DISH//「猫」だと思うが、正直、こんな、いつの時代だよって言いたくなるほど、何も新しいこともやっていなければ、社会的メッセージもほとんどない曲で満足できているんだから、本当、日本の邦楽好きの若者って大丈夫か?って思ってしまう。保守的すぎるよね。だから、自民党支持なんだろうけれどね。

それでいて、「香水」や「猫」を大したことない曲って批判する中高年に対して“新しいものを受け付けられない老害”と言っているんだから、意味不明。自分たちが全然、過去の曲に関する知識を持とうとしないから知らないだけなのに、それを指摘すると“老害”扱いするんだから、どちらが老害なんだかって感じだ。「香水」や「猫」という楽曲が古くさいということを知っている中高年の方がまだマシだと思うな。

というか、瑛人、自分で作った曲なのに生歌、下手だよね…。

 

一部マスコミでは、“氷川きよしを受賞させろと指令が出た”とか“乃木坂46を受賞させろと指令が出た”とか報じられたけれど、アレはなんだったんだろうか?確かにかつての“EXILE一族を受賞させろ指令”は事実だったようで、その報道が出てからはEXILE一族の受賞はなくなったけれどさ、それ以降は単に面白おかしく書いているだけでしょ!

 

氷川きよし「母」は確かに良曲だと思うし、芸術性という面で見れば、多分、10曲の中で一番ふさわしいと思う。しかも、作詞を担当した、なかにし礼が授賞式直前に亡くなっている。哀悼の意を込めて受賞となってもおかしくはない。ただ、世間的には、今年の氷川きよしは演歌以外の分野での活動で知られていた。だから、この曲で受賞となると、納得いかない人も多いとは思う。

 

乃木坂はコロナ関連の配信チャリティ・シングルの「世界中の隣人よ」が対象曲になっているのは意味不明。同じ配信シングルだったら、「Route 246」の方が世に浸透しているでしょ。小室哲哉提供曲って話題になったんだし。それとも、普段は音楽番組を見ないような層もレコ大は見るから、小室を前面に出した曲だとクレームが来るとでも思ったのか?

 

普通に考えたら、今年、乃木坂が唯一出したCDシングル「しあわせの保護色」が候補曲になるはず。でも、この曲は卒業したまいやんがセンターの曲だから、まいやんが出てこないなら選んでも仕方ないっていうテレビ局の演出の都合だけで候補から外しているかもしれない。

 

まぁ、ファン以外にも浸透した今年の乃木坂曲といえば、「しあわせの保護色」のカップリング曲「I see…」だから、本当ならコレが一番候補にふさわしいんだけれどね。

過去にはAKBが表題曲「唇にBe My Baby」よりも人気が出たカップリング曲で朝ドラ主題歌の「365日の紙飛行機」で大賞候補になっているんだから、カップリング曲だって候補になれるんだよね。結局、「I see…」を歌っているのは4期生だから、飛鳥や生田、真夏などファンでなくても何となく知っている人が参加していないので視聴率が取れないみたいなテレビ局の演出の都合で外されているだけなんだろうね。

 

AKBもコロナ関連の配信チャリティ・シングル「離れていても」で候補に入ったが、これも意味不明。AKBが今年唯一出したCDシングルの表題曲「失恋、ありがとう」ならまだ分かるけれどね。というか、紅白から落選したようにレコ大候補からも外れるのが当然だと思う。かわりに日向坂46「ソンナコトナイヨ」を入れた方が良かったのでは?去年は日向坂も候補に入っていたんだしさ。

 

純烈、三浦大知DA PUMPは何故入っているのか理解できない。三浦大知DA PUMPに関しては芸能事務所やレコード会社との裏取引で入っていると言われても仕方ないと思う。

 

個人的には、「炎」以外の作品が大賞となった場合で唯一納得できるのが、Little Glee Monsterの「足跡」だと思う。でも、受賞するなら去年の「ECHO」の方がふさわしい曲だと感じている。ラグビーのワールドカップ開催年にNHKラグビー関連曲としてリリースされたという時代性も反映しているしね。

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