自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

2020年映画納めは「ジョゼと虎と魚たち」

晦日に映画館に行くのが実は好き。

最近はシネコン的営業の仕方により、普通に夜の上映も行われいるし、いわゆるレイトショーも実施されているが、ひと昔前までは大晦日は夕方の回の上映が終わると営業を終えてしまっていたんだよね。

普段は、ひとでなしといっていいくらい、スタッフをコキ使う興行経営者も、年越しの瞬間くらいは家族と一緒にいさせてやろうっていう判断をしているのかな?

コキ使うといえば、自分は深夜とか早朝にタクシーで出勤することがあるんだが、その時にドライバーがやりとりしている無線の音声がよく聞こえるんだよね。迎車の待ち合わせ場所の連絡をしているんだけれど、基本はテレビや新聞などマスコミ関係が圧倒的に多く、あとは省庁とか、夜遅くまで飲んだくれていた一般人っぽいのも多いかなってところだが、それらと合わせて目立つのがTOHOシネマズの深夜タク送の待ち合わせ場所確認の無線なんだよね。イベントのようなものがなければ、基本、日付けが変わる前にシネコンの営業は終わっているのに、夜中の2時、3時とか、下手すると、ほとんど早朝の4時とかに無線が入っているんだよね。本当、映画館スタッフって重労働なんだなと実感する。しかも、低賃金なのにね。

 

話は戻るが、シネコン以外では今でも大晦日は短縮営業の所も多い。なので、基本、安いレイトショーでしか映画を見ないライト層とか、飲んだ後に休息がわりに映画館にやってくる人は大晦日に映画館にはやってこない。というか、そもそも、わざわざ、大晦日に映画館へ行く人間なんて朝や昼間も含めて映画マニアしかいない。サービス業やマスコミなどを除けば、大晦日は休みだから、外回りの時間つぶしで映画館に来る人もいないし、カップルや家族連れは他にやることがたくさんあるからね。だから、普段より映画館の環境が良いというのはあると思う。まぁ、シネコンはそんなに変わらないけれどね。夜間営業もしているし、ショッピングモールの中に入っているのが多いからね。

 

そんな普段より本当に映画が好きな人が集まる率が高い。そして、普段は腹立つ対応も多いが、それを水に流す意味も込めて映画館スタッフへの1年の労いをしたい。そういう要素もあるので、仕事の都合や体調がイマイチ(たとえば、前日飲み過ぎて2日酔いとか睡眠不足)の時などを除けば、映画納めを大晦日にすることにしている。

 

過去10年に大晦日に見た作品は以下の通り。

2011年「怪物くん」

2012年「砂漠でサーモン・フィッシング

2013年「ブリングリング」

2016年「甲鉄城のカバネリ 総集編 前編 集う光」

2018年「平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER」

2019年「パラサイト 半地下の家族」

 

10年で6回、大晦日に映画納めをしていた。

ジャンルもバラバラ。とりあえず、大晦日時点で見ていない新作で、その日の体調や気分、睡眠不足か否かなどを考慮した上で、なるべく遅くとも午後いちくらいまでには見終わることができるスケジュールで、上映されている作品の中から単に選んでいるだけだから、別に年納めにふさわしい映画なんて思いは全くない。

でも、不思議とどこで見たかきちんと覚えているな…。

 

そんな大晦日鑑賞映画のラインアップに加わった今年の鑑賞作品はアニメ映画版の「ジョゼと虎と魚たち」。

まさか、大晦日鑑賞作品が、その年の自分のベスト作品のランキング上位を更新するものになるとは思わなかった…。

 

いや、泣けました!

そして、ジョゼが可愛い!

恒夫役の中川大志、ジョゼ役の清原果耶、メインの2人を演じた非本業声優の演技もなかなか良いんだよね。

この2人はアニメーターを描いた朝ドラ「なつぞら」で義理の兄妹を演じただけあって、アニメに対する理解が深いのだろうか?

 

そして、話自体もよくできているんだよね。

普通、日本の障害者を描いた映画やドラマ、アニメ、コミック、小説などは、ほとんどの作品で障害者を“純真無垢な天使”か“障害のために別の部分が研ぎ澄まされ、その結果、特殊な才能を持つことになった天才”、そうでなければ、単に“かわいそうな人”として感動ポルノの“おかず”として描かれることが多い。

 

でも、本作では、車椅子生活のジョゼは、わがまま放題だし、口も悪い。実際、駅とか街中で見る障害者って、本当、性格悪いのが多いから、これは本当、リアリティがある描写だと思う。

 

そして、障害者の周囲の人間も普通の作品だと、“自己を犠牲にして障害者の面倒をみる清廉潔白で高貴な人”みたいに扱われることが多いが、本作では、こういう人たちに関してもリアリティあふれるキャラクター描写になっている。

 

恒夫のバイト仲間・隼人は、ジョゼを見るなり“自分の好み”と言い、自分の欲望を隠したりしない。

同じくバイト仲間で恒夫に恋心を抱いている舞は、ジョゼに嫉妬し、2人の仲を裂こうと画策する。しかも、間接的とはいえ、その行為のせいで恒夫は後遺症が残るかもしれないけがをすることになる。とんでもないクソ女だ。

 

でも、本音でぶつかっているからこそ、彼等は最終的には、なんだかんだでつるんだりするグループになっているんだから、その辺の人間関係描写も障害の有無に関係なくリアルだなと思う。

 

そして、終盤は前述したように涙が溢れて仕方なかった。ここまででも、かなりの高得点だが、エンディングに途中で話していたアレに関する描写が出てきたら一気に今年のベスト映画の上位進出確定だなと思いながら見ていたら、エンディングにアレが出てきた。もう、今年を代表する傑作の1本に確定してしまった。

 

ブルーレイ化したら購入するかもしれないな…。

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