自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

アーヤと魔女

ジブリの新作がテレビ放送で初公開?そりゃ、驚くよね。通常の開催ではないとはいえ、カンヌ国際映画祭の公式セレクションに選ばれたし、米国では劇場公開の予定もあるという。それなのに日本ではテレビスペシャル扱いというのは謎だ。しかも、放送局はNHK。日テレじゃないの?過去のジブリの単発テレビスペシャル「海がきこえる」は日テレでの放送だったのにね。

 

ジブリ作品のテレビ放送時の通常の放送局である日テレや劇場公開時の配給である東宝ジブリの関係が悪化したようにも見えないしね。

日テレは年末に「風の谷のナウシカ(正確にはジブリ映画ではないが、権利はジブリが持っているので、実質ジブリ作品ということで)を放送したし、東宝は去年、ジブリ作品4本を再上映し、その興行収入を年末に発表したからね。

 

鬼滅信者の中には、東宝が「千と千尋の神隠し」の再上映時の興行収入を「鬼滅の刃」の新記録達成を遅らせるためにカウントするのは卑怯だとか言っているのがいたが、それは無知をさらけだしているだけだから、言うのをやめた方がいいと思う。

 

千と千尋の神隠し」も「劇場版 鬼滅の刃」も東宝配給作品だから、どちらが上でも東宝としては構わないんだよ。というか、新作が上になった方がいいに決まっている。それから、日本の興行界ではカウントするもしないも配給会社の自由という密室談合的なものになっているけれど、世界的に見れば、再上映時の興行収入をカウントするのは当たり前のことだから、卑怯でもなんでもないんだよね。再上映時の興行収入を年末まで発表しなかったのは、再上映時は「千尋」の興収を抜く作品が出るとは思っていなかったからだと思うし、年末になって、やっと発表したのは、年内最終週に新記録達成にした方が盛り上がるから、調整弁として、「千尋」の再上映分をカウントしたって感じなんじゃないかなと思う。

 

そういうのを考えると、日テレや東宝の手を離れてNHKでの放送となったのは、おそらく、日本ではジブリ作品としてヒットしないと思ったからではないかなと思う。

1999年の「ホーホケキョ となりの山田くん」が東宝配給ではなく松竹配給になったのは、おそらく4コマ漫画を水彩画タッチでアニメ映画化するという実験的すぎる要素がヒットしないと推測された(実際、コケたし)のと同じ理由ではないかなと思う。

本作はCGアニメーションとして製作されているが、それが水彩画描写の「山田」のような実験的作品として敬遠されたのではないかと思う。ジブリ信者というか、ある程度の世代より上の国産アニメのファンにはCGを極端に嫌う勢力が多いからね。

そして、そうしたジブリ信者や国産アニメのファンには、本作の監督である宮崎吾朗を極端に嫌っている人も多い。

そうした、CGと吾朗という要素から、通常の日テレ・東宝ルートでは話題にしにくいと判断したような気がする。

 

個人的には吾朗の監督第1作「ゲド戦記」は酷評するほどのものではないと思っている。というか、劇場で2回見たくらいだから好きな部類に入ると思う。それから、2作目「コクリコ坂から」に関しては傑作だと思っている。

でも、アニメファンからは批判ばかり。宮崎駿の息子ということで、パヤオのような唯一無二の作品を期待していたのに、そうではないから期待外れと感じた人が多かったのかな?新人監督がパヤオと同じような仕事をできるわけないのにね。

あと、なんだかんだいって、パヤオ鈴木敏夫がバックアップしているから、単なる親の七光りじゃないかと思われていることも反感を買う原因かもしれない。

 

一方、今回の「アーヤと魔女」だが、やたらとネットの声は絶賛が多いが、個人的には凡作だと思ってしまった。

 

CGに関しては、少なくとも米国のアニメーション映画を見ている人なら違和感はないと思う。これで、CGがどうのとか言っているのは、ディズニー・ピクサーの作品すらまともに見たことがないくせに、自分が古い価値観に凝り固まっているだけなのに、それを偉そうに批判の道具にしているだけの老害だと思うので、そういう意見は放置していいと思う。

個人的には通常の日本のアニメだと、キャラが手描きで背景がCGみたいなものが多いが、本作はその逆パターンに見える箇所もあったように感じた。日本のアニメにはCG嫌いの老害にも受け入れやすいように、CGで作画していても手描きに見えるセルルックという技術が使われている作品があるが、本作の背景では、それに近いことをやったりもしたのだろうかと推測してしまった。

 

ただ、ストーリーに関しては、面白いとは思うけれど内容がないってのが正直なところかな。ほとんど、オチらしいオチもなく、“これで終わり?”って感じのエンディングだったが、世間ではアレが受けるのか?

まぁ、「鬼滅の刃」は、途中で終わったテレビシリーズも、途中から始まった劇場版も世間的には大絶賛だったから、今の若者を中心とした視聴者・観客には受けるのかもしれないな。

 

それにしても、「進撃の巨人」をはじめ、本来は他局のものだったアニメが、次から次へと、NHKのものになってしまっているよな…。ジブリも今後、少なくともテレビ用の新作はそうなるのか?

 

「鬼滅」のテレビシリーズに2期があるとしたら、総集編放送で視聴率を稼いだフジテレビではなく、NHKでの放送になりそうな気もするよね…。

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