自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

僕は僕を好きになる/乃木坂46

曲調やパッと聞いた感じの歌詞からいえば、「君の名は希望」、「今、話したい誰かがいる」、「いつかできるから今日できる」、「帰り道は遠回りしたくなる」などといった乃木坂楽曲でもたびたびテーマとなるスクール・カースト下層の人たちや職場で疎外されているような人たちを勇気付ける“一歩踏み出そう!”系ソングに聞こえる。

 

でも、何故かこの曲は最初に聞いた時から違和感を抱いていた。

そして、何度か聞いているうちに分かった。

 

コレって、スクール・カースト下層などの人に対して、“無視されるのはお前が悪いんだよ”って言っている歌詞なんだよ。

“居心地の悪いグループでも輪に入らなきゃいけないんだよ。やってみなきゃ分からないだろ?”なんて言われたら、いじめとか無視にあった経験のある人からすれば、“ふざけんな!”って思うよね。

要はいじめられるのは、いじめられる奴が悪いって言っているんだからね。許せないよね。

“居心地が悪いのは輪に入っていかないお前のせい。輪に入っていかないからアイツは嫌な奴にしか見えないんだよ”なんて言い草も、パワハラだセクハラだってのを受けている人からしたら、“ふざけんな!”でしかない。

そういう体育会系脳の連中によるパワハラなんだよね、この曲の歌詞は。

 

まぁ、秋元康は作品によってコロコロ思想が変わる人だから、今までの“一歩踏み出そう!”系ソングとは似て非なる楽曲でも、気にせず送り出すんだろうけれどね。

 

ところで、この曲のMVはラストでオープニングに戻るという構造になっているが、それって、デヴィッド・リンチ監督の「ロスト・ハイウェイ」を思い浮かべるよね。もっとも、あの映画はどう考えても辻褄が合わなかったが、このMVは基本、何パターンかの撮影シーンを組み合わせただけのものだから、全然、辻褄も何もないんだけれどね。

 

そして、今回のシングルにはカップリング曲として堀未央奈の卒業ソングでソロ曲の「冷たい水の中」も収録されているが、この楽曲の発表の仕方はなかなかショッキングだった。

MV中の台詞で堀未央奈の乃木坂からの卒業が明かされるというもので、その情報はMVが解禁されるまでは世に出ていなかったからね…。

このMVの監督は堀未央奈主演の映画「ホットギミック ガールミーツボーイ」の山戸結希だが、未央奈はこの映画に出たことにより、乃木坂を出て、外の世界で闘っていこうという気持ちが強まったんだろうなというのを改めて実感した。

映画には、アイドル映画らしからぬセクシャルな場面もあったし、今回のMVでも雨の中、制服を脱ぎ捨てるというセクシャルなシーンがある。まぁ、グラビアでは普通にやっているけれど、映画やMVではあまりこういうことはしないよね、アイドルって。

そういう性的な描写も厭わないほど山戸監督の演出に心酔しているとともに、彼女と仕事をしたことによって女優業というものに対して本気で取り組みたいという思いが強まっていったのではないかと推測する。

 

まぁ、楽曲自体は、いかにも、秋元康が作った卒業メンバー向けの汎用型バラードって感じで褒められるものではないが、MVは未央奈の意気込みが感じられる作品になっているとは思う。

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