自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

ナタ転生

月に最低でも1回以上映画館に行ったにもかかわらず、その鑑賞作品に洋画(アジア作品を洋画と呼ぶのはいまだに違和感があるから外国映画と呼んだ方がいいかな?)が1本も含まれていなかったのって、いつ以来だろうか?

去年の緊急事態宣言の時は5月に映画館に全く行かないことはあったけれど、緊急事態宣言明けの6月は新作の公開を見送る邦画が多かったせいで洋画しか見なかったし…。

 

社会人になって以降、去年を除くと、映画館で映画を1本も見なかった月があったのは1995年だけだが、この年は逆に映画館で邦画を1本も見ていないしね…。

となると、高校生の時以来なのかな?でも、高校生の時は普段つるんでいるグループに映画好きがいなかったから、あまり映画館に行かなかったんだよな…。

結局、この時つるんでいた連中との縁は切れてしまった。体力作り以外の趣味のない連中って、大人になると話が合わなくなるんだよな…。だったら、この時、映画に興味を持っている別のグループとつるんでいれば良かったって思ったりもするが、当時、スクールカーストでいうところの下層もしくは、そのカーストにすら入れてもらえない存在だった自分は、そういうグループに入る余地もなかったんだけれどね…。そんなわけで、月に映画館に1回も行かないこともあったので記憶はあまり定かではない。

 

ただ、月に複数回、映画館に行ったにもかかわらず、その鑑賞作品の中に外国映画が1本も含まれていないって言い方なら、確実に小学生の高学年の時以来って言えるかな。

この頃は、映画館で見る外国映画というのは、「スター・ウォーズ」シリーズとカンフー映画(広義で香港映画)くらいで、それ以外だと「E.T.」とかがあるくらいだったからね。

 

そんな、いつ以来だろうと思うような珍事が今月は起こりそうな状態だったが、何とか2月最後の日に外国映画を映画館で見ることができた。まぁ、アニメだし、しかも、中国作品だけれどね。

 

それくらい、外国映画の供給がコロナの影響で減っているってことなんだよね。正確に言えば、供給はされているけれど、ほとんどが小規模公開やミニシアター公開で、1日フルに上映されている作品は少ない。シネコンなんかは、ほぼ邦画に独占されている。そりゃそうだよね。ハリウッドのメジャー・スタジオの新作がほとんど供給されていないんだからね。

ディズニーは次から次へと話題作を配信オンリーにしているし、ワーナーは米国では劇場公開と同時に配信開始となっているし、ユニバーサルは劇場公開数週間後に配信開始となっている。また、劇場公開が延期されたままの作品も多い。

既に米国で劇場公開された作品でも、従来のワイドショーやスポーツ紙稼働のプロモーションが難しいから、日本では劇場公開が決まらないものも多い。中には「X-MEN」という日本でも知名度のあるシリーズのスピンオフにもかかわらず、日本では劇場公開を見送られた「ニュー・ミュータント」なんていう作品もある。そういう状況だから、外国映画を映画館で見る機会は圧倒的に減ってしまった。

 

なので、観客動員数ランキングでは現時点で4週連続でトップ10内に外国映画が1本もないという異例事態となっている。

ここでいう外国映画というのはハリウッドの実写映画だけではない。ハリウッドの実写映画がランキングのトップ10内にランクインしていないような状況だったら、邦高洋低の興行になって久しいので、これまでにも何度かあった。

しかし、この4週間は、ハリウッドの実写映画のみならず、アニメーション映画も、ヨーロッパや(日本を除く)アジアの作品も、米国製アート系作品も入っていない。吹替版のみで公開の作品や、日本と海外の合作作品すら入っていない。

こんな状況って、外国映画がほとんど上映されなかった戦中以来の異常事態なのではないかという気もする。まぁ、その頃にランキングが発表されていたかどうかは知らないが…。

 

コロナ前から日本人、特に若者がK-POPや海外ドラマを除く海外エンタメに興味を持たなくなってしまっているってのはあるが、それが、コロナによって一気に拡大したって感じなのかな?

 

CDなどフィジカルの売り上げ以外の要素も集計しているBillboard JAPANの年間チャートで100位内に入った洋楽って、K-POPを除いたら、シングルでは3作、アルバムでは2作しかないからね。つまり、洋楽のシェアは数パーセントしかない…。しかも、洋楽アルバムのうち1作品は「アナ雪2」のサントラ盤だからね。日本盤のサントラには吹替版キャストによる日本語バージョンも収録されているからね。つまり、完全な洋楽として去年ヒットしたアルバムは実質ビリー・アイリッシュグラミー賞受賞作だけなんだよね…。

 

そんな海外文化摂取が難しいご時世の中、公開されたのが中国製アニメーション映画の「ナタ転生」だった。

おととしの字幕版の限定公開で密かなブームとなり、去年、吹替版が公開されると、中国映画、しかも、アニメ映画としては異例の観客動員数ランキングでトップ5入りを果たした「羅小黒戦記」のヒットのおかげで他の中国アニメも公開されるようになったということだろう。

それから、「ナタ」というキャラクターは、「羅小黒」にも出ていたので、「羅小黒」の次に見る中国アニメとしてプッシュしやすいというのもあったのかもしれない。「羅小黒」では、男の娘みたいな雰囲気で出てきたが、今回は、本来の神話に出てくる「ナタ」に近いイメージって感じなのかな?それでも、お団子ヘアには変わりなかったけれど。

 

ただ、公開劇場がTOHOシネマズの池袋と上野のみというのは、日本の観客には受けないかもという不安もあったんだろうね。いまだに、CGアニメを毛嫌いする連中が多いからね。特に中高年に。「羅小黒」は手描きアニメで日本のアニメっぽい雰囲気がしたからすんなり受け入れられたけれど、「ナタ」はCGアニメーションで、ハリウッドのアニメーション映画に近い作画なので日本の中高年にはアレルギー反応を起こす者も多いかもしれない。だから、中国人が多い池袋と上野。オタク街にあるTOHOシネマズ池袋とオタク街の秋葉原に近いTOHOシネマズ上野のみの上映で様子見しようって感じなのかな?

 

実際に見た感想としては、CG作画はハリウッド製に比べると若干ぎこちない感じはするけれど、見ているうちにすぐに慣れてしまったし、ベースとなっている話はアジア人なら何となく知っている内容だし、アジアに共通するモノの考え方とかも描かれているから、結構、楽しむことはできた。ちょっと、くどいかなとは思ったけれどね。中国の料理のおもてなし方みたいな感じかな。

 

全体としての感覚としては、日本のアニメと香港のカンフー映画・アクション映画、ハリウッドのSF・ファンタジーといったあたりが一体化したみたいな感じかな。既視感は多いかもしれないけれどね。

 

思想的な面でいうと、いくら謝罪しても許さないキャラクターというのは中国や韓国から執拗に謝罪を求められ続けている日本みたいだなとは思った。今では世界的には日本を上回る存在の国になったんだから、そんなことする必要ないのにね。まぁ、日本を反面教師と見ていれば、いつ自分も落ちぶれるか分からないから不安なんだろうね。

 

それから、ヒロインの扱いも若干気になった。当初、ヒロインと思われたキャラが闘いに巻き込まれて障害者になってしまい、主人公が憧れていた女性が途中からヒロインのようになってしまう。そして、終盤では三角関係のようになっているってのは、どうなのよって気もした…。

 

でも、全体的には面白かったとは思う。ただ、エンド・クレジットの途中で本作と同じ日本の配給会社が担当する作品(中国アニメ映画「白蛇:縁起」)の予告編が挟まるのはふざけんなと思った。

ディズニー映画「ヘラクレス」が、本編とエンド・クレジットの間に藤井フミヤによる日本語版主題歌のMVを挿入される形で公開されたり、ラトビア製のアニメーション映画「Away」が台詞がない静寂の世界を描写している作品内容に合った短いエンド・クレジットが本来の形なのに、その後に、ノリノリの邦楽ナンバーをかける日本独自のエンド・クレジットが付けられたりしたことと並ぶ、ふざけんな事案だったと思う。

 

ところで、「Away」もそうだし、日本語吹替版スタッフ・キャストの詳細を紹介するエンド・クレジットが追加された「羅小黒」の吹替版もそうだし、本作もそうだけれど、エンド・クレジットに日本独自のものが追加されると、邦画と同じように最後に映倫マークが出て来るんだね…。どうでもいい話だけれど…。

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