自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

太陽は動かない

新型コロナウイルスの影響で多くの映画が公開延期となった。そして、その後、再調整された日程で公開された作品には、興行成績面での成功・失敗にかかわらず賞味期限切れ・消費期限切れになったと言いたくなる作品もいくつかある。ポケモン映画最新作で年末に公開された「ココ」は当初の予定通り夏に見たいと思う内容だったし、秋に公開された「映像研には手を出すな!」は当初の予定通り、ドラマ版の放送が終わった直後の初夏に見た方が鮮度が保てたと思う。

 

でも、この「太陽は動かない」に関しては、公開時期が当初の去年5月から今の時期に変更されたおかげでタイムリーな作品になったと思う。

米大統領選挙でバイデン勝利が濃厚になってきた去年の秋あたりから、環境保護政策に熱心な彼に媚びを売るかのごとく日本を含む世界中の政府や企業が脱炭素社会に向けた提案を相次いで出すようになった。特に、バイデン大統領就任式が行われた今年1月以降は、連日のように新聞紙面に脱炭素関連のニュースが掲載されるようになっている。

 

脱炭素利権を巡る日中韓のスパイ合戦(ロシアも絡んでいる)が描かれている本作はまさに、そうした世界的な動きと見事にタイミングが合致してしまった。ハリウッド・メジャーのワーナー資本とはいえ、日本映画の新作が最近の国際情勢と合致するなんて滅多にないことだ。大抵の邦画は自宅から徒歩圏内の距離感の話を描いたものばかりだからね。

 

そして、また、名前を出すが、ワーナー資本であるために、一般的な邦画よりは迫力のある画作りになっていると思うし、アクション・シーンも頑張っているとは思う。多分、「ボーン」シリーズの日本版みたいなことをやりたかったんだろうなとは思った。

 

ただ、全体としては若干、空回りしている所もあるというか、散漫というか、そんな印象しか持てなかった。上映途中にトイレなどで席を立つ人が多かったのは、そういう構成の難で退屈に感じた人が多いからだと思う。

 

退屈に感じる最大の要因は唐突に挿入される回想シーンのせいだと思う。もう少し構成を整理して、主人公の過去シーンは挿入すべきだったと思う。あと、冒頭に延々と流れる世界観の説明もテレビドラマ的で映画としてのテンポを悪くしていたと思う。まぁ、WOWOW FILMS作品だし、監督が「海猿」シリーズの羽住英一郎だから、テレビ的なのは仕方ないんだけれどね。

 

そして、回想シーンといえば、主人公が高校時代に好感を抱いていた女子生徒役で南沙良が出ているが、また、南沙良が制服姿で出演している作品を見てしまったって感じだ。可愛いから、何の問題もないが。ちょっとだけだが、大人っぽい衣装も見られるのも良かった!それにしても、本当に可愛い!そりゃ、高校時代の主人公ではないが、仲間が彼女のお尻を見たかどうかは気になるよね!

 

それにしても、本作の政治的思想は謎だった。ネトウヨっぽい要素とパヨクっぽい要素が混在していた。

 

ネトウヨ思想と思った要素としては

  • 敵が韓国人、中国人
  • 韓国人女性が日本人女性の名前を名乗っている
  • 中国が脱炭素施設を開発といいながら実は軍事転用しようとしている
  • 通信社が裏ではスパイという設定はいかにもマスゴミ反日・在日と言うネトウヨの思想そのもの

 

パヨク思想と思った要素としては

  • 一度決めたことを中止できない日本の企業や政治家を批判している
  • 虐待するような親でも子どもは親と一緒にいた方がいいという日本の考え方を批判している
  • 日本の企業や政治家が裏で中国と組んでいるような描写がある

 

などがあげられる。

 

しかし、そういうのを抜きにしても、言葉の問題はどうにかならなかったのだろうかと思ったりもした。そりゃ、ネトウヨじゃなくても反日・在日の連中が作った映画って言いたくなりそうだよね。

外国人設定のキャラクターがたどたどしい日本語を話すのはいいとしても、日本人と思われるキャラクターでも変なアクセントの日本語台詞が多かった。というか、日本人俳優の台詞でもおかしなアクセントが多かったし、藤原竜也の台詞でも“原発”のアクセントがおかしかったぞ。外資系作品だからチェックの仕方がおかしいのかな?

さすがに、予告編にはあった韓国人俳優が韓国語で話しかけているのに、藤原竜也が日本語で返答するという訳の分からないご都合主義は修正されていたが。

 

それから、結局、この映画もよくある藤原竜也映画の一つでしかないってのも満足度が低い理由かな。

藤原竜也が出ている映画って、どれもこれもツッコミどころだらけで、いつも、彼が何かに巻き込まれて、その度に、呻いたり、叫んだり、暴れたりしているだけって感じだしね。

 

それにしても、King Gnuによる主題歌「泡」だが、予告編で使われている部分だけを聞くと、汎用型の邦楽バンドのバラードって感じに思えてしまう。ぶっちゃけ、メンバーの別プロジェクトであるmillennium paradeによる「ヤクザと家族」の主題歌「FAMILIA」とほとんど変わらないじゃんって思った。というか、「FAMILIA」自体、millennium paradeらしからぬ汎用型邦楽に思えて仕方なかったんだけれどね。ヌーではできない多少は薄めなくてはいけないオルタナ要素を好き放題できるのがミレパだと思っていたからね。

 

そして、この「泡」を本作のエンド・クレジットで予告編で使用された部分以外も聞いたが、売れ線邦楽からはかけ離れた楽曲に仕上がっていたので驚いた。しかも、連絡が途絶えると、心臓に埋め込まれた爆弾が爆発するという主人公たちの設定に合わせて、心音が使われていたのにも感心した。

 

とりあえず、予告編でやたらと何度も強調されていた悪役による“バ〜ン!”という寒いやつが本編では1回しかなかったことに安堵しました…。

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