自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

IDOLY PRIDE -アイドリープライド-

結構、色んな要素をぶち込んでいるのに、そんなに話題にならないんだから、アイドルアニメのブームは完全に飽和状態なんだろうなとは思う。

 

というか、「ラブライブ!」シリーズは新たなシリーズ「スーパースター!!」がこれまでのTOKYO MXなどでの放送からNHK(正確にはEテレ)での放送になるくらい圧倒的な人気を誇っているし、「アイドルマスター」シリーズも15周年を記念したリスアニ!の増刊号が出るくらい根強い人気を誇っている。また、「アイカツ!」もアニメと実写を融合した作品が放送されるくらいだから、なんだかんだ言って人気は持続しているのだと思う。

 

また、純粋なアイドルものではないが、アイドルアニメ的展開を他の音楽・芸能ジャンルで描いたコンテンツもそれなりに人気を集めている。バンドものの「BanG Dream!」や、DJものの「D4DJ」、この2作に比べるとそんなに成功した感はないが、歌劇ものの「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」といったあたりがそれに該当する。

 

中には本来は全く音楽・芸能ジャンルではないはずの競馬を題材にしながらもアイドルアニメの要素を取り入れた「ウマ娘 プリティーダービー」なんてものもあり、これは、ギャンブルしか趣味がないような層の支持まで集めてしまっている。

 

つまり、これだけ広義のアイドルアニメが乱立していたのでは、余程のことがない限りは埋もれてしまうってことなんだろうなと思う。

 

本作「アイドリープライド」は本業でない人が声優を務めるとブーブー言うような連中ですら認めている神田沙也加が伝説のアイドル・麻奈を演じ、彼女の妹・琴乃を含む同じ事務所所属のアイドルにはニューカマーが大量出演。

そして、ライバル事務所の人気アイドル2組(LizNoirとTRINITYAiLE)は、スフィアのメンバー全員とTrySailのメンバー全員がそれぞれ演じている。

さらに楽曲制作には、大石昌良Q-MHz、kzなどが参加している。

これだけ、アニメやアニソンが好きな人たちが歓喜するような面子が参加しているのを見れば、誰でも、一大旋風を巻き起こすだろうと思うのに、結果としては知る人ぞ知るアニメ扱いになってしまっている。

関連CDも「ラブライブ!」や「アイマス」、「バンドリ」、「D4DJ」といったコンテンツの関連作品に比べると全然売れていない。TrySailが劇中グループ名義で出した実質TrySailによる楽曲ですら、オリコンの総合チャートでトップ40入りもしないんだから、いかに注目されていないかが分かる。TrySail名義で出せば、最低でもオリコンの15位までには入るんだからね…。

それって、バンドとかDJ、歌劇、競馬のような変化球ならまだしも、ストレートなアイドルものであれば、「ラブライブ!」や「アイマス」などの老舗ブランドがいまだに新展開をしているから、面子が豪華ってくらいでは話題にならないってことなのだろうか。

 

でも、参加面子以外にも話題になるような要素は多かったんだけれどね。色々ぶちこんできたしね…。

 

何しろ、誰もが主人公だと思っていた神田沙也加演じる伝説のアイドル・麻奈は1話で死んでしまうからね…。

これだけなら、“へ?”で終わるんだけれど、その後、彼女は幽霊として同級生でもあったマネージャー・牧野のもとに現れる。“何だそれ?”って感じ。

 

そして、麻奈が所属していた事務所が送り出した新しいアイドルには、彼女の妹・琴乃と、彼女の心臓を移植されたさくらがいる!しかも、このさくらは麻奈と同じ歌声を持っているという、これまたとんでもない設定をぶちかましている。

さらに、牧野同様、幽霊になった麻奈を認識し、会話ができるメンバー・芽衣も出てくる。かなりぶっ飛んだ設定だ。

 

そうしたとんでも設定ばかりクローズアップされてしまうが、本作は純粋に新人声優の発掘の場としてもなかなか健闘していたと思う。

確かに棒演技って言いたくなる人もいたけれど、お嬢様でありながら、ドルヲタでポンコツキャラ設定のすずを演じた相川奏多なんて、なかなか良かったと思う。すずというキャラクターが個人的には一推しになったが、それは相川奏多の演技によるものが大きいと思う。

しかも、彼女は同時期に放送されている「ワンダーエッグ・プライオリティ」の主人公・アイ役では全く違う演技を披露しているんだよね。なかなか、すごい新人声優が出てきたと思うな。

 

ちなみに、「アイドリープライド」における私の推しキャラは以下の順です。

①すずにゃん

牧野を呼び捨てにするの好きだった。あとちっちゃい!

芽衣

もしかすると、幽霊が見えるっていう設定って、「ゴースト/ニューヨークの幻」の霊媒師、オダ・メイから来ているのかな?麻奈と幽霊の見えないメンバーとの間に入って通訳しているシーンを見て思ったが…。

③遙子さん

序盤で事務のお姉さんのような仕事をしていた頃は一推しだった。アイドル復帰してからは酔っ払いのちょっとウザい先輩になってしまったけれど…。あと、他のメンバーが牧野さん呼びするなか(呼び捨てのすずにゃんは除く)、昔から知っている遙子さんは牧野くん呼びしているのも好き。

 

とりあえず最終回には感動した。最近、秋元系アイドルやそこから暖簾分けした指原系アイドルを巡る“恋愛”スキャンダルが続発しているけれど、アイドルが“恋愛”をしたければ命懸けでなくてはいけないんだよということを教えてくれたような気がする。

まぁ、誰が見ても麻奈が牧野に恋愛感情を抱いているのはバレバレだったけれどね。琴乃ですら分かっていたんだからね。

もしかすると、「アイドリープライド」って、アイドル育成ストーリーではなく、マネージャー育成ストーリーだったのかな?

 

そんなわけで、何だかんだ言って楽しんできたし、キャラクターに感情移入したりもしてきたんだけれど、やっぱり、全体としては物足りないんだよね。

 

本作に登場するアイドルは、

①麻奈(神田沙也加)

②麻奈の後輩にあたる星見プロダクションの面々(月のテンペストとサニーピースの2グループ計10人)

③ライバルにあたるLizNoir(実質スフィアなので4人)

④同じくライバルにあたるTRINITYAiLE(実質TrySailなので3人)

と計18人もいる。

 

①は主人公だと思っていたのに、1話で死ぬという衝撃的なスタートとなったものの、その後はなんだかんだいって、毎回、牧野との絡みのシーン(途中からは芽衣も参戦)があるから、裏ヒロインとしての役割は果たしているとは思う。

 

でも、②に関しては、中盤まではまだ、各キャラの出番はあったけれど、アイドル大会(VENUSプログラム)の描写が中心になってくると、月のテンペストのリーダーで麻奈の妹の琴乃と、サニーピースのリーダーで麻奈の心臓を持つさくら以外はほとんど空気状態となってしまっている。他のメンバーでは、幽霊が見えるという設定の芽衣が、麻奈と琴乃やさくらの間に入って通訳する“仕事”のために出番があるくらいだ。

 

最近のアイドルアニメでは、「22/7」や「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」が、序盤からしばらくは、全体のストーリーを展開しつつ、毎回、1人のメンバーにスポットを当てていき、一通りのメンバー紹介が終わった後にクライマックスが来るという構成にしていたので、終盤になると、それぞれのメンバーに対する愛着がわいてくるが、この「アイドリープライド」では、そういうことをやっていないので、星見プロダクションの2グループのそれぞれのリーダー以外は端役扱いになってしまっているのが残念で仕方ない。実際、作中での名前の呼ばれ方も、“琴乃やさくらたち”みたいな扱いになっているし。まぁ、個々のキャラの掘り下げに関してはゲームでやるよって方針なんだろうけれどね。

 

あと、③と④の扱いもスフィアとTrySailという人気声優ユニット2組のメンバー全員を起用しているのにもかかわらず、活かしきれていないとしか言えない。

③なんかは、終盤になるまで4人全員が集合しなかったしね。

④に関しても、センターと所属事務所社長がいつも言い合っているのは、実は親子の関係だからだというのをいきなり提示されてもねって感じかな。まぁ、その関係性が明かされた回は感動的だったけれど。

 

風呂敷を広げすぎたんだと思うな。1期で星見プロの面々に愛着を持たせ、2期でライバル2組に焦点を当てるみたいな作りにした方が良かったと思うな。

まぁ、新人声優だけだと話題にならないかもしれないので、神田沙也加やスフィア、TrySailなんかも投入したんだろうけれどさ…。

 

最終回は、きれいにまとまってはいたから、2期が作られるかどうかはゲーム版の人気次第ってことなんだろうな…。まぁ、4人になったLizNoirのパフォーマンスは描かれていないから、それは描いてほしいとは思うかな。

 

そういえば、パフォーマンスで思い出したが、気合い入れて描いている時がある一方で、止め画で済ませたり、エンドロールを流している間にパフォーマンスしたことにしたりすることもあって、結構、アイドルアニメの一番大事な部分がおざなりになっている気はしたな。

でも、楽曲は良曲揃いなんだよね。だから、イマイチ、盛り上がらなかったのが本当、残念だなって思うな。

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