自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

ワンダーエッグ・プライオリティ

メインキャラ4人のうち3人の声を「ラブライブ!」シリーズ(「サンシャイン!!」の斉藤朱夏、「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の楠木ともり矢野妃菜喜)出身者が担当し、残りの1人、相川奏多も新人ではあるが、同時期に「アイドリープライド」というアイドルアニメに出演している。そして、この4人でアネモネリアというユニットを結成し、オープニング、エンディングの両テーマ曲を担当している(どちらも良曲!)。つまり、アニメ、声優、アニソンが好きな人にアピールする要素は十分にある。

 

また、先の読めない展開、考察したくなる設定等は、「エヴァ」や「ハルヒ」、「まどマギ」あたりと同様、アニメ好きのみならず、サブカル厨にも好まれそうな内容だ。実際、4人組がペンダントを付けているところなんて、嫌でも「まどマギ」のソウルジェムを思い浮かべるし、クローン的な存在の登場は「エヴァ」っぽいしね。

 

さらに、数々の人気ドラマを手掛けた野島伸司が原案と脚本を担当していることから、アニメやサブカル系の作品には興味を持たない一般層にも広がる可能性を秘めている。

 

なのに、ほとんど話題にならなかったのは何故?本作をチェックしているわずかな人たちだけが毎週、SNSなどで感想を述べたり、考察を繰り広げたりしているだけで、そこからは全然広がっていかない。だから、マスコミやネットメディアが後追いで騒ぐこともない。

 

確かに作品の世界観とかキャラ設定とかが理解できなかった最初の2話は正直なところ、つまらないと思った。でも、おそらく視聴者層に一番愛されているキャラだと思われる川井リカが登場した3話(いきなり、“風俗へ行け!”という台詞をぶちかましたのには驚いたが)あたりから、世界観や個々のキャラを認識できるようになり、4話で4人組が揃ってからは毎週見るのが楽しみになってしまった。

 

というか、このリカってキャラクターがこの作品の重苦しい雰囲気を見やすいものに緩和してくれているように思う。

担当声優が発表された時に斉藤朱夏が参加と明かされた瞬間、メイン4人組のビジュアルを見て、彼女が演じるのは、このマイルドヤンキーみたいな娘だろうなと予想したら、本当にそうだったから、かなり狙ったキャスティングなんだろうね。

そして、実際に見てみると、マイヤンみたいな部分と、川井リカという名前通りに可愛い(苗字が川井だから自分で可愛いリカちゃんとネタにしていたが)面も見せてくれて、回を重ねるごとにリカ推しになってしまった。

そして、彼女と母親の確執が描かれた7話なんて、大感動のエピソードだった。

登場人物の中で一番人間的だし、視聴者の多くが彼女推しになるのも納得って感じかな。朱夏にとって当たり役になったと思うな。

 

ここまでなら、間違いなく、今期の(死語になっているけれど)覇権アニメだと思った。でも、次の8話がいきなり、それまでの総集編になっていたことには驚いた。

普通、総集編にはエピソードナンバーをふらないのに、ふっているってことは、当初予定していた全12話分の予算と制作時間では限界があったってことなのだろうか?確かに下手な劇場版アニメを上回るレベルの作画をしていたから、余裕はなかったのかもしれないしね。

確かに、この総集編はそれまで理解できていなかったこと、特に冒頭2話あたりの疑問を分かりやすくしてくれたので、終盤戦を見る上でのガイド役にはなってくれたとは思う。

でも、正式なエピソードとして総集編を入れたのは裏の事情が見え隠れするから、一気に作品への評価は落ちてしまったかなって思う。

 

とはいえ、総集編後の9〜11話では色々な謎の背景も明かされてきたので、覇権アニメとか神アニメとかにはなれなくても、十分、今期を代表するアニメの1本として、何年か後に再評価される作品にはなれると思っていた。

 

しかし、最終回とされる今週放送の12話を見たら、総集編後の3話で挽回した分もチャラになるくらいの内容で正直、ガッカリしてしまった。

 

全然とは言わないけれど、話が完結していないんだよね。かといって、2期とか劇場版を期待させるほどの煽りもない。そして、本編終盤では6月に特別編が放送されるとの告知テロップが流れた。

 

つまり、本来12話で完成する予定だったのに途中で総集編を挟むことになったのは多くの視聴者が想像した通り、制作スケジュールの遅れがあり、穴埋めで放送したということでしょ。

でも、局の編成上の都合で放送期間を延長することはできない。だから、3月いっぱいでレギュラー放送はいったん終了ということにして、本来の最終回を次のクールの期末に特別編という扱いでしれっと放送しようってことでしょ。何か一気に興醒めだよね…。

 

でも、今週の仮の最終回を見て、主人公、大戸アイ役の相川奏多に対する評価はまた高まったかなとは思う。

同時期に放送されていたアイドルアニメ「アイドリープライド」では、お嬢様でありながら、ドルヲタでポンコツキャラのすずを演じていたけれど、あのすずにゃんとアイが同じ人って分かった時はびっくりした。演技の幅が広いんだなと思った。

そして、今週の“最終回”ではパラレル世界のもう一人のアイまで演じわけていたんだから、本当に感心してしまった。

しかも、彼女、新人声優なんだよね。かなり期待できるニューカマーだと思う。個人的にはルックスも好きだし。

 

ところで、パラレル世界って基本、こちらの世界の人間と対になっているはずだから、もう一人のアイが小糸を知らないっておかしいよね…。それから、パラレル世界のアイが自殺していたら、こちらの世界もリンクして死ぬのが普通では?そういうことも含めて、疑問点や未解決案件が結構あるんだよね。今回の“最終回”は…。

 

とりあえず、中途半端にレギュラー放送を終えてしまった「ワンエグ」という作品の評価は特別編が放送される3ヵ月後までお預けかな…。

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