自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

美空ひばり(AI歌唱) 「あれから」

AI歌唱の美空ひばりの是非というのが議論されている。

 

広義で言えば、91年の「アンフォゲッタブル」以降、ナタリー・コールが何度も行った亡き父(今ではナタリー自身も故人だが)ナット・キング・コールのレパートリーを、父の音源とバーチャル・デュエットした楽曲群もAI歌唱と似たようなケースなのかもしれない。でも、これは、音楽ファンには好評だった。

日本ではいまだに、コラボ曲をレコーディングする際に両者が同じスタジオに集まるというパターンが多いようだが、洋楽の世界では遥か昔から別々に録音したものをミックスするということをしていたので、このバーチャル・デュエットはそれと似たケースと言えなくもないのかなとは思う。

 

また、90年代半ばにジョン・レノンのデモ音源に残りのメンバーが演奏・歌唱を追加して作り上げられたザ・ビートルズの2曲の新曲も同様のパターンかもしれない。

 

96年に射殺された2パックは、次から次へと未発表曲がリリースされるので、実は生きているんじゃないか?みたいな冗談が交わされたこともあった。

でも、年を経れば経るほど、2パック存命中には世に出ていなかったアーティストや、交流がないと思われるアーティストとのコラボ曲が出てくるようになり、さすがにこれは、一種のバーチャル・デュエットとはいえ、本人とは関係ないところで作られているよね?って感じるようになっていった。ナタリー・コールは娘だし、ザ・ビートルズはバンド・メイトだから、過去の音源に手を加えても抵抗は少ないしね。

 

また、ヒップホップ東西抗争で、2パックの仕返しに翌97年に射殺されたザ・ノトーリアス・B.I.G.の死後リリースされた新曲には明らかに、既発表音源を使い回したと分かるものがあった。これは、完全に違うよねと思った。

 

今回のAIひばりに一番近いケースは初音ミクなのかもしれない。でも、ミクは存在自体がバーチャルだから、アニソンやキャラソン的な流れで受け入れることができた。

 

じゃ、何故、ひばりは批判されるのか?

ファンの年齢層を考えれば、ナット・キング・コールザ・ビートルズの加工音源を認めた世代ともかぶるはずなのに…。

おそらく、音源だけならまだしも、映像もAI加工したから批判されているんだろうなという気がする。ナットにしろ、ビートルズにしろ、2パックにしろ、ビギーにしろ、死後リリースされた楽曲の映像は過去のものを再利用しているだけで、アーティストの映像をバーチャル化したわけではないからね。しかも、AI加工されたひばり映像、なんか不自然だしね。それから、音源自体もなんか、ぎこちないところある。ぶっちゃけ、駅とかで耳にする案内音声みたいなつながりに聞こえる箇所もある。洋楽の世界におけるバーチャル・コラボや、ミクなんかと比べると出来が悪いというのが正直な感想かな。

 

まぁ、曲自体は名曲だと思うけれどね。若干、昔は良かった的な懐古厨全開なのはどうかなとは思うが、それでも、名曲には違いないと思う。

秋元康は炎上芸人だし、世間知らずなところもあるけれど、こういう名曲をコンスタントに出してくるから無視できないんだよね…。何しろ、ひばり生前最後のシングル「川の流れのように」も秋元康作品だからな…。

それにしても、ベテラン・アーティストというのはキャリア終盤は、たいしてヒットに恵まれないというパターンが多いが、ひばりは、「川の流れのように」以外にも、「愛燦燦」、「みだれ髪」といったヒット曲を出していたんだからすごいよな…。

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