自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

さよならテレビ

舞台挨拶も特典配布もないのに満席。
そして、客席の雰囲気が明らかに普段のシネコンともミニシアターとも違う。
シネフィルとか映画マニア、ドキュメンタリー好きという感じでもない。
マスゴミ批判が好きなネトウヨにも見えない。パヨクにはちょっと見えるが…。
ぶっちゃけ、カタギに見えない…。
おそらく、テレビを含めた映像・マスコミ業界の人間、もしくは、家族や友人に関係者がいるような人が見に来てきているのではないかと思われる。
自分はシネフィル・映画マニアの類と、映像・マスコミ関係者の両方に属する人間なので、つい、そういうニオイに敏感に反応してしまったが…。
まぁ、今回の年末年始は曜日の巡りが良いので、ワイドショーの仕事始めは6日放送から。2日、3日はスポーツ系を除けば生放送特番も少ない。だから、放送関係者が見に来やすいんだろうなという気はする。
自分も長年、報道情報番組に関わってきた人間だから、話題のこのドキュメンタリーを見ておかなくてはと思い、久々にポレポレへ行くことにした。

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とりあえず、本作の内容に関して未見の人も含めた多くの人が抱いているイメージというのは、テレビ業界、特に報道情報番組における

①やらせor演出
②視聴率vsジャーナリズム
③建前と本音
働き方改革
⑤非正規労働
なんてあたりに切り込んだ作品って感じだと思う。

 

①に関しては、作中でも何度か言及されているが、プロデューサーやデスク、チーフ・ディレクターなどが事前にGOを出した台本通りにやらなければならず、取材でもなんでもない単なるロケになっている日本の報道情報番組の現場を批判していると思う。しかも、ジャーナリズム志向の強い人ですら、あらかじめ、オチはどうすべきかなんて完成前に言っていたりする。そりゃ、日本にジャーナリズムはないよねという意見には同意せざるをえない。

 

②に関しても、ゼヒモノだらけのどこがニュース番組なんだ?ジャーナリズムなんだ?という批判をするとともに、そんなゼヒモノばかりなのに視聴率が落ちただのなんだと文句を上から言われるのはおかしいでしょというメッセージも感じる。また、上がGOを出した台本通りやらなくてはいけないのにジャーナリズムも何もないだろう!と悪態もつきたくなる。
あと、これはマスゴミ批判が好きな人たちがよく言う「同意を得ずに勝手に取材すんじゃねぇよ!」という台詞をマスコミ側が言っているのも面白かった。確かに自分は映されるのは嫌いだ。これに関しては、マスゴミ批判好きなネトウヨに文句を言うことができない…。

 

③に関しては、本作は東海テレビ作品ということで、嫌でも「セシウムさん事件」を思い出してしまうし、作中でも言及されているが、あの事件はマスコミ業界者の本音だよねと思う。ぶっちゃけ、東北出身者を除けば、テレビ業界者の多くは、「東北の野菜や米を食べて被災地を支援しよう」なんていうのは偽善だと思っているし、そういうものは食べたくないと思っている人も多いと思う。
作中で事件発生の報せを受けて、被害者を「女性」ではなく、「女」と呼んでいる報道フロアーの様子が映し出されているが、これもそう。表向きは被害者を悼んでいるけれど、裏ではそうではないってこと。
裏では「雅子」とか呼び捨てにしているのに、原稿では「皇后さま」とか「雅子さま」と書いている人間多いしね…。
あと、打ち切りとか降板が決まっているのに「存続のために無茶してくれ」って、無駄な努力させる上司いるよね。この作品に出てくる降板させられるアナウンサーとか、派遣記者とかもそういうものの被害者だが。

 

④に関しては、作中でも言及されているが、残業するなと内容にこだわれは矛盾しているし、しかも、結局、テレビを見ているのは中高年ばかりだから、スポンサーがつかず、予算や人件費が削減されている。そんな、金も時間も人手もないのに、視聴率を取れ、内容を良くしろってのは本当ふざけんなって話だと思う。

 

⑤はそんな諸問題を解決というより、押しつけるために雇われた外部スタッフの問題だが、外部スタッフに頼らなきゃ何もできないくせにと、正社員の報道局員を見下していると同時に、このドキュメンタリーのプロデューサーや監督は東海テレビの局員なので、外部スタッフをも能力不足とか、社会不適合者みたいなレッテル張りをし見下しているのも、外部スタッフ側の人間としては腹が立った。そして、この都合よく雇われ、都合よく理由つけてクビにさせられる外部スタッフの扱いには本当、腹が立つ。

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 と、テレビ業界、特に本作の取材対象となり、自分もよく知っている報道情報番組の現場に関する問題点や矛盾点、先行きのない未来について語ってみたが、そんなのがどうでもいいように思えてくる映画だった。あえて、ドキュメンタリーではなく映画と呼ぶが。
テレビ番組を再編集したものなのに、エンドロールが黒味に文字だけのクレジット羅列というのも、まず何よりも映画を意識しているんだろうなとは思う。

テレビ論なんかどうでもいいやと思った理由は見ていてかなり違和感があったこと。狭い場所で急遽取材しているはずなのに、明らかに複数のカメラで撮影されているし、構図もしっかりしている。それに、画質も映画に近い撮り方をしている。でも、それは「金あるんだろうな…」くらいに思っていた。ところが、終盤になると、画質がワイドショーのものになり、ガンマイクは見切れるし、同ポジカットも増えてくる。「アレ、どうした?おかいしぞ…」と感じるようになった。
そして、あのオチ…。
これは、ネタバレになるので言えないが、絶賛したくなる気持ちも、酷評したくなる気持ちも起こるエンディングだ。