自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

ジョーカー

アメコミ映画としては超異例のベネチア映画祭金獅子賞を受賞した(まぁ、コンペ部門で上映されるだけでも異例だが)「ジョーカー」を見た。睡眠不足状態で見たにもかかわらず、見ている間、ずっと緊張感が続き、鳥肌も立ちっぱなしのすごい映画だった。おかげで、エンド・クレジットになった瞬間、緊張感から解放され、忘れていた睡眠不足も思い出し、一気に疲れが出てきて、あくびが出てしまった…。

本当に自分が見ているのはアメコミ映画なのか?ワーナー映画という、れっきとしたハリウッドのメジャー作品だし、音響効果のすごさは確かにハリウッド映画なのだが、何かミニシアター系の映画を見ているような気分にもなったでも、80年代初頭の雰囲気を再現しているのだから、ハリウッド大作であることは間違いないとは思うが…。

80年代初頭の再現といえば、画の質感が70年代から80年代の米国映画って感じになっていたのにも感心した。それに合わせて、冒頭に出てくるワーナー映画のロゴも昔のものになっていたし。まぁ、エンディングは普通に現在使用しているワーナーのロゴだったが…。

あと、ゴッサム・シティのモデルとされるニューヨーク市の70年代から80年代の社会問題を描いているんだけれども、それだけでなく、表面上は好景気とされながらも、格差社会が広がり、職業や思想、性別などで世の中が分断している、米国をはじめとする先進国やそれに準ずる国々の現在の社会情勢も見え隠れしていて、そりゃ、三大映祭で最高賞を受賞したり、アカデミー賞有力なんて言われるのも納得だなと思う。

昨年度、アカデミー作品賞にアメコミ映画として初めてノミネートされた「ブラックパンサー」は、トランプ批判しないといけない、黒人を持ち上げないといけない。そんな、圧力による過大評価でノミネートされた部分が大きいと思う。(面白いとは思うし、音楽は良かったけれどね)個人的には、これまでのアメコミ映画だったら、同じくマイノリティーものであれば、「デッドプール」シリーズや「ローガン」、「ワンダーウーマン」。社会問題反映系でいえば、「スパイダーマン2」とかの方が余程、「ブラックパンサー」より作品賞候補にふさわしいと思っている。でも、この「ジョーカー」に関しては、作品賞にノミネートされなきゃおかしいでしょ!ってレベルの傑作だと思う

そもそも、アカデミー作品賞のノミネート枠が10本(現在は5本以上最大10本)にまで拡大されたのは、「ダークナイト」が作品賞にノミネートされなかったことに対するブーイングがあったからなので、これで、やっと、雪辱をはらせるってことなのかな。

自分は映画を見ると、どうしても、矛盾点とか、明らかなミスとか、そういうのが気になってしまうが、本作は、そういうアラ探しの余地がないんだよな…。何しろ、一種の○オチだからな…。

日本で、○オチの作品が絶賛されるって珍しいよな…。本当かどうか知らないが、手塚治虫が○オチを嫌ったせいで、「神様・手塚の言うことは正しいんだから、センスのある人間なら○オチは酷評するでしょ!」みたいな風潮がてきたらしいしね…。日本のアニメーターのブラック労働環境を作ったのも手塚だし、本当、こいつは害悪なのに、神様扱いされているから腹立つんだよな。ディズニーから色々パクっているのに、手塚信者が「ライオン・キング」は「ジャングル大帝」のパクリと言っているのもムカつく。まぁ、パヤオや高畑という手塚批判派もいるが…。

 

チャールズ・チャップリン作品が好きな人は必見だと思う。ジョーカーが映画館で「モダン・タイムス」を見るシーンがあるだけでなく、同作のテーマ曲「スマイル」も使われているし、作品全体に流れる社会風刺のテイストは「モダン・タイムス」にも通じる。その時によって、コロコロ態度を変える富豪や著名人の姿は「街の灯」の酔っ払い富豪を思い浮かべる。悪人を殺すのは、正義か犯罪かという問いかけは「殺人狂時代」。落ちぶれた芸人は「ライムライト」。さらに、「独裁者」のように大演説をぶちまけるシーンもある。そもそも、ジョーカーのピエロ姿は、チャップリン先生の山高帽浮浪者ルックスにも通じるし。

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