自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

Away

全編台詞なしの長編作品(台詞はないが声は多少はあった)ということで、もしかしたら退屈極まりないマスターベーション度の高い作品なのではという不安も見る前にはあったが、実際に鑑賞してみると結構、スリリングなシーンもあるし、退屈とは思わなかった。

アイアン・ジャイアント巨神兵使徒が混ざったような巨体は謎の存在だったが、オチも含めた不条理な感じは良くできていたとは思う。

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ただ、作画面では多少の違和感を抱いたのも事実かな。手描きとCGのハイブリッドみたいな質感の画質(実際はCGらしいが)自体は良いと思うし、背景や人間とか謎の巨体のキャラデザも良いと思う。でも動物キャラが不格好なんだよね。それからキャラの動きがぎこちない。滑らかすぎるハリウッド製や止め画を多用しつつもナチュラルな日本製に慣れている目で見るとカクカクしている感が強いかな。

 

それはさておき、何ですか?今回の日本公開版の最後にくっついている“日本版エンディング”ってヤツは?
せっかく、個人製作作品ならではの超短いエンド・クレジットで余韻も何もなく不条理なエンディングから、一気に現実世界に引き戻されるのが本作を鑑賞する醍醐味だと思うのに、無意味な邦楽タイアップ曲を延々と流しら何の意味もなくなってしまうでしょ!

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「羅小黒戦記」の日本語吹替版は、良質な吹替版を作るために多くの声優やキャストが関わったから、オリジナルのエンド・クレジットの後に続けて吹替版のエンド・クレジットが流れることには意味があったんだよ。
でも、本作は台詞なしの作品なんだから、日本版エンド・クレジットなんて不要でしょ!しかも、2コーラスが終わるまでは延々と名場面が流れるだけで何のクレジットも出てこない。
それで、やっと出てきたと思ったら、日本の配給や宣伝の関係者の名前がクレジットされるだけ。そんなの流す必要ないでしょ!邦画なら配給や宣伝だって、映画のスタッフだけれど、オリジナル音声のまま上映する洋画は違うよね!
そして、呆れるのが、この“日本版エンディング”に流れる曲が本編の雰囲気をぶち壊しにするような全く作品とイメージが合っていない楽曲!いい加減にしろ!と言いたい。しかも、本作の音楽はアニー賞の音楽部門にノミネートされていて、日本でもそれを宣伝文句にしているんだから余計な邦楽曲を付け加えるなんて蛇足もいいところ!

 

昔、劇場でディズニー映画「ヘラクレス」を字幕版で見た時に、本編とエンド・クレジットの間に藤井フミヤが歌う主題歌の日本語バージョンのMVを挟んで上映されたことがあったが、それと匹敵するほどの怒りを覚えた!

 

とりあえず、「鬼滅の刃」にハマった人にすすめても興味を持ってくれることはないだろうということだけは確実に言える作品かな。
「鬼滅」好きって言う人って、何故か他のアニメやコミック、映画に興味を持たない人が多いから、多分、この作品の存在すら知らないだろうね。

それで、「鬼滅」は面白いけれど、絶賛するほどの作品ではないし、それって、ひと昔前の「ワンピース」やさらには、その昔の「ドラゴンボール」と同じで、その場で楽しければいいだけの娯楽でしょって指摘すると、老害の発言と批判されてしまうんだよね。

それから、「鬼滅」に限らず、今の日本人、特に若い世代ってのは自分の好きなもの以外に興味を持たない人が多すぎるよね。
海外なんかでは、ストリーミング(サブスク)が当たり前の生活になるにつれて、映像作品にしろ、音楽にしろ、古今東西のあらゆる作品に興味を持つ人が増えているのにね。

 

米国はひと昔前までは、人種や年齢で聞く音楽のジャンルが決まっていたが、今では新曲も昔の曲もジャンルに関係なく聞く人が増えたからね。フリートウッド・マックリバイバル・ヒットや毎年大量にリエントリーするクリスマス・ソングなんてのは、まさにそのストリーミングによって興味の範囲が広がった恩恵だよね。レコードでもCDでもダウンロードでも購入という形では手を広げられるのは限界があるからね。

 

でも、日本では特に若い世代を中心にストリーミング利用者でも自分の好きなジャンル、好きなアーティストしか聞かない人が多い。
だから、米津玄師やあいみょんのやっている音楽なんて、ひと昔前の音楽を今の音で焼き直しただけじゃんと批評する人に対してファンは老害だから良さが分からないだけという批判しかできない。

同様にSixTONESストーンズと読ませているのはロック界の生きるレジェンド、ザ・ローリング・ストーンズに対するリスペクトがないでしょと主張した人に対してファンは老害が偉そうに自分の意見を押し付けているとしか批判できない。

老害って言葉、便利だよね。自分より年上の人間が自分の気に入らないことを言えば、全部、老害批判で片付けられるんだもんね。自分が無知なだけなのにね。
ひと昔前は、自分が好きなアーティストが年上の人から、「○○のフォロワーじゃん!」とか「○○のパクリじゃん!」って言われたら、その先達の作品も聞いて、まぁ、そう言われるのも納得だなと思い、自分の好きなアーティストのルーツを研究したりしたものだけれど、今の若い人たちって、音楽にしろ、映画にしろ、アニメにしろ、そういうことしないよね。

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