自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!

いまだにNYやLAといった大都市では映画館の営業は再開されていない。こうした中、NYやLAのマーケットを無視して強行公開した数少ないハリウッド大作である「テネット」はコロナ禍としては十分な成績をあげたし、日本など海外ではヒットしたけれど、製作費などを考慮すれば、物足りないと言わざるを得ないを成績となっている。だから、劇場公開予定だった話題作は次から次へと公開延期になるし、再延期や再々延期の作品もかなりある。

 

また、ディズニーは多くの作品で劇場公開を取りやめて配信オンリーにしているし、ユニバーサルは現時点で劇場公開できる地域では上映し、その数週間後に配信するというシステムを導入している。さらに、ワーナー が来年いっぱいという期限付きではあるものの、現時点で劇場公開できる地域での上映と同時に配信を行うと発表した際には、映画監督から批判の声も上がった。

このほかにも、劇場公開をあきらめて、配信サービスにいくつかの作品を提供するようになったパラマウントのような映画会社も出ている。

そうした影響か、今年度のアカデミー作品賞にノミネートされる作品はNetflix配信映画が過半数を占めるのではないかなどという予測も出ている。

 

とはいえ、NYやLAなどを除いた地域では8月から映画館の営業が再開されていて、本数は例年よりも少ないし、興行成績も寂しいものではあるが、「テネット」以外にもコンスタントに新作が供給されてはいる。

 

だが、こうした作品の多くは日本公開未定の作品ばかりなんだよね。ラッセル・クロウロバート・デ・ニーロリーアム・ニーソンといったスターの主演作品や、スピルバーグ監督率いるアンブリンの新作、X-MENシリーズのスピンオフなどといった通常なら、本国での公開より日本公開が遅れたとしても日本公開の情報は入ってくるような話題作のはずなのに、こうした作品群の日本公開情報が全く入ってこない状況となっている。

 

“全米大ヒット!”“全米が泣いた!”みたいな常套句を使った宣伝文句が使えないというのはあるかもしれないし、ここ2ヵ月間ほどに関していえば、「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」以外の作品はほとんど話題にならないという状況も確かにはある。

そして、洋画、特にハリウッド映画のコアな観客層である中高年が新型コロナウイルスの感染を恐れて、ハリウッド系作品をかけるシネコンに戻ってきていないというのも影響しているのだとは思う。

ミニシアター系作品は邦画、洋画問わず中高年観客が戻ってきてはいるようだが、シネコンでかかるハリウッド系に戻ってきていないというのは、若者や家族連れが集まるシネコンは怖いというイメージを持たれているってことなんだと思う。

ワイドショーで気持ち悪いほどの“無責任な若者批判”が展開されているのは、外出できない中高年のストレス発散なんだとは思う。

 

でも、出歩いているのって、若者ばかりじゃないだろ!

“勝負の3週間”とかなんとかいう様子見期間を設けてGo To一時停止を先延ばししておきながら、その間に、会食だなんだをしていたアホな総理大臣をはじめとする自民党の連中やコイツらに媚びている芸能界やスポーツ界の連中なんて、老害と呼んでいい年寄りばかりだろ!

 

そんな様々な要素が重なって、なかなかハリウッド系映画を公開しても利益が出ないという判断が下され、本国ではメジャー・スタジオ配給の作品でも、日本の支社や配給権を持っている会社が配給権を放棄してしまっているものも多いようだ。

 

どん底作家の人生に幸あれ!」は現在はディズニー傘下である旧FOX系のサーチライト作品。つまり、本来はディズニー配給作品として公開されるはずなのに、なかなか日本公開が決まらず、やっと、先日、とんでもない邦題とともに(原作はチャールズ・ディケンズの「デイヴィッド・コパフィールド」だよ!こんなクソ邦題にするなんてありえないでしょ!)ギャガ配給で公開されることが発表されたばかりだ。まぁ、英米合作だから英国側の配給会社であるライオンズゲートの影響で日本公開がディズニー配給にならなかった可能性も高いとは思うが。

 

そして、急遽日本公開がアナウンスされた本作「ビルとテッドの時空旅行」は米国ではUA配給のオライオン映画。同じ組み合わせのリブート版「チャイルド・プレイ」は日本では東和ピクチャーズ配給で公開されているし、米国ではUA、英国ではユニバーサル配給の007シリーズ最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」(コロナの影響で公開延期)は東宝東和配給となっている。だから、本来なら東宝東和系のレーベルで配給されるべき作品なのに、ファントム・フィルム配給となっている。

 

つまり、従来のハリウッド映画の配給会社は、スタッフ・キャストの来日キャンペーンや、海外でのプレミア上映といったイベントで華やかさをアピールするプロモーションが中心だったが、コロナにより海外映画人は来日しないし、海外でもイベントは開催されない。なので、従来のプロモーションができない⇒作品が認知されない⇒ヒットしない⇒配給権放棄という流れになってしまっているのかもしれない。

 

そして、やっと日本公開された本作だが、1作目は当時の松竹東急系と呼ばれていたチェーンの中でもヒットの見込みの低いチェーンでの公開となり、当然コケてしまったし、2作目はスプラッシュ公開と呼ばれていた地方での2本立て公開用の併映作品扱いだった。だから、コロナ禍で洋画不足とはいえ、23区内のTOHOシネマズ全てで上映される今回は異例の拡大公開となってしまっている。

配給会社に拒否されても劇場には求められているってこと?というか、配給を拒否した東宝東和も、上映しているTOHOシネマズも東宝のグループだよね…。

 

そんな話はさておき、作品自体について語ることにしよう。

 

いい年こいてバカな音楽マニアをやめられないビルとテッド。そして、同じく音楽マニアになってしまったビルの娘とテッドの娘のコンビ。

コレって、我々、音楽マニアそのものだよなと思う。ストーリー自体はどうでもいいんだよね。世間から見たら、社会不適合者かもしれない我々、音楽マニアの絆を確認するための映画なんだからね。

まぁ、5年後の未来の世界から盗んでくる音楽の収録メディアがCD-ROMというのはどうかと思うが…。まぁ、一般的な米国人の間ではストリーミングによる音楽視聴が当たり前でCDなんて過去の遺物になっているが、音楽マニアはいまだにフィジカルに愛着を持っているという描写なんだろうなとは思った。

ただ、ビルとテッドの死期が迫った老人時代の未来でUSBが使われているのはどうかとは思うが…。

 

それはさておき、ビルとテッドの娘たちが、父親たちを救うために“スーパー・バンド”を結成させようと動くのだが、その面子がジミヘンにサッチモモーツァルトにキッド・カディ等々とジャンルも異なるメンバーなのが今風かなとは思った。

ビルとテッドの音楽の基本はHR/HMだけれど、今の若い世代はストリーミングで色んな音楽を聞くようになったから(フィジカルだと金銭的にも限界があるが、ストリーミングだと月額の基本料金だけでどんなジャンルにも手を出せるからね)、結構、雑食なんだよねというのを表現しているのかなとは思う。

自分はストリーミングなんてのが登場する遥か昔から色んなジャンルに手を付けていたので、こういう雑食性な音楽マニアものは大好き!

もう、舞台となる時代と場所の表記だけで、ジミヘンが来るな!とか、サッチモが来るな!とか、モーツァルトが来るな!なんて分かったしね。サッチモは似ていたよね!

 

ところで、キッド・カディはキッド・カディという役をキッド・カディが演じているみたいな感じで出番も多いので、カメオではないと思うが、本作には彼とは別にデイヴ・グロールカメオ出演していた。本当、いい人感、アニキ感の強い人だが、それよりも何よりも、カートの死で事実上、ニルヴァーナが消滅した時に、まさか、デイヴがニルヴァーナ時代よりもビッグな存在になり、しかも四半世紀にわたって、ロック界のアニキとして活躍し続けるとは思わなかったよな…。

 

とりあえず、音楽マニアなら見て損はない映画だと思う!

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