自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

第93回アカデミー賞ノミネート発表

今回の第93回アカデミー賞のノミネートを見ると、配信映画といわゆるミニシアター系作品ばかり。コロナの影響で大作映画の多くが公開延期されているとはいえ、このラインアップでは授賞式の中継番組の視聴者数(米国では視聴率よりも視聴者数を重視している)は大幅にダウンしそうだなと思った。

 

例年、最終的に作品賞は取れなくても候補の中には噛ませ犬的に大ヒット作や大作が入っているが、今年はそれもないからね…。コロナ禍になってから公開された数少ない大作で、尚且つ、唯一、賞レースに参戦できる作品だった「テネット」がたったの2部門でしかノミネートされず、作品賞や監督賞など主要部門では無視ってのはありえないよなって思うが、それって、クリストファー・ノーラン監督の映画館重視、映画会社批判スタンスが同業者には嫌われているってことなのかな?

 

コロナ禍では、特に欧米では、今まで通りの映画館での興行なんて無理なんだから、コロナが落ち着くまで公開を延期するか、配信という形で世に出すか、そのどちらかであり、このご時世で劇場公開すべきではないと考えている監督やプロデューサー、俳優が米国には多いってことなんだろうね。緊急事態宣言下なのに新作を続々と公開する日本とは大違いだよね…。まぁ、日本も去年の緊急事態宣言の時はさすがに映画館の営業は停止されていたけれどね。

 

コロナ禍で期待通りの成績を上げられなくても、営業している映画館がどこかにあるのであれば、新作を映画館に供給したいと思うノーラン監督の姿勢は、映画ファンや映画館には歓迎されても、多くの同業者からすれば、余計なお世話扱いなんだろうね。

 

個人的にはコロナ禍に数少ない大作で尚且つ、アート思考もある作品を世に送り出したノーラン監督と「テネット」という作品は評価すべきだと思うけれどね。

 

それにしても、作品賞候補となった8本を見ると、米国の黒人連中がまた、ブーブー文句を言いそうだよねって思った。いわゆる、黒人問題に特化した作品は「JUDAS AND THE BLACK MESSIAH」だけだしね。「シカゴ7裁判」は黒人差別問題も描いてはいるけれど、メインキャラは白人だからね。

 

そして、差別されていると主張する米国の黒人が差別しているアジア系の監督作品が2本も候補に入っている。アジア人が活躍するのが気にくわない黒人連中は、「ザ・ファイブ・ブラッズ」や「マ・レイニーのブラックボトム」、「あの夜、マイアミで」といったあたりが何故、作品賞候補に入らないんだとか文句を言いそうだな。

 

ところで、今回はコロナ禍における特例で、“劇場公開を予定していたものの、コロナの影響で劇場公開を見送り、配信という形で公開した作品にもノミネート資格を与える”となっているが、「ザ・ファイブ・ブラッズ」が作品賞や監督賞には無視されたものの、作曲賞にノミネートされているってことは、配信に先駆けた劇場上映の予定があったってことなのかな?以前見たネット情報では、米国でも日本でも劇場公開されずにNetflixで配信されたって書いてあったから、てっきり、ノミネート資格はないものだと思っていた。

 

現時点では、日本でも劇場上映されたネトフリ映画2本しか見ていないから(どうも、配信で映画を見るのって得意じゃないんだよね…)、きちんとした評価はできないが、その2本の中から作品賞にふさわしいものを選べと言われたら、「マンク」を挙げるかな。

配信映画なのに、そして、劇場での限定的な上映だってデジタル上映なのに、途中にフィルム上映時代のロール掛け替えの合図だった“パンチマーク”が入っていて、しかも、その時には映像とか音声が乱れたようになる(本当、フィルム上映時代って、キレイに掛け替えられることの方が少なかったんだよね…)という手のこんだ演出はフィルム上映時代を知っている映画ファンならニヤニヤしてしまうしね。だから、今回、最多10部門でノミネートってのも納得かな。映画業界関係者や映画好きならたまらない作品だしね。

 

そして、例によって、日本のメディアは「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」が長編アニメーション賞にノミネートされなかったって騒いでいるけれど、ノミネートされるわけがないだろって言いたい。アカデミー賞は面白い映画や人気がある映画を評価する賞じゃないんだよ。

東宝東映・松竹の作品を中心に評価する日本アカデミー賞のアニメーション部門と一緒にされては困るってものだ。結局、日本の映画関係者にはまともにアニメーションを評価できる人間がいないから、大手3社以外のアニメ作品は受賞・ノミネートの機会が少なくなっているわけだしね。

 

本家アカデミー賞の長編アニメーション賞に関していえば、独特な映像表現をしているとか、新しい映像技術を使っているとか、政治的・社会的メッセージを持っているということが重視されるから、進化することを忘れてしまった日本人がいまだにこだわっている手描きアニメーションなんかが評価されるわけがないんだよね。

 

話が面白いとか画がきれいとか感動したとかではノミネートされないんだよ。ぶっちゃけ、今回、日本からエントリー資格を得た6作品のうち、一番、ノミネートされる確率が少なかったのが「鬼滅」だと思う。

CG作品の「ルパン三世 THE FIRST」と「アーヤと魔女」、ロトスコープ作品の「音楽」は技術的な評価の対象になるし、「きみと、波にのれたら」は独特な湯浅演出がある。「泣きたい私は猫をかぶる」は欧米の映画賞が好きな家庭の問題をオリエンタルな要素とともに描いている。

でも、「鬼滅の刃」は面白い、画がきれい、感動的。それだけだからね。今回、映画化された部分だけで兄妹や師弟の絆を評価するのは無理があるし。前後の話をテレビアニメや原作コミックで知っている。あるいは、アニメも見ていないし、原作も読んでいないけれど、マスコミやネットの情報や家族・友人らから聞いた話で知っているから、兄妹や師弟の絆を感じ取れるだけだしね。

 

別に日本の興行記録を塗り替えたからといって名作ではないんだということを分かっていない人が多い。前の日本記録保持作品「千と千尋の神隠し」は作品単体で評価できたし、演出面でも、メッセージ性でも批評家や映画マニアに評価される点はあっだけれど、「鬼滅」にはないんだよね。別に日本の映画評論家やキネマ旬報、米国のアカデミー賞が評価しないのは逆張りでもなんでもないんだよね。

 

今回の長編アニメーション賞では、「2分の1の魔法」がノミネートされているが、別にあの作品が面白いからノミネートされたわけじゃないんだよ。ぶっちゃけ、自分が見たピクサー長編で一番つまらない映画だと思うし、ドリームワークスのアニメーション作品をさらに劣化させたような出来でしかないと思う。でも、マイノリティの活躍といった社会的・政治的なメッセージが含まれているから民主党寄りの思想に偏りまくっている今の米国では評価せざるを得ないんだよね。

 

映画の賞レースって、そういうものでしょ。前回の日本アカデミーで「新聞記者」が最優秀作品賞を受賞したら、ネトウヨがブーブー文句を言ったし、今回は「Fukushima 50」が最優秀作品賞候補である優秀賞受賞作品(この全員勝者みたいなアホなシステム、ダサいよね)になっていることに対してリベラルやパヨクが怒っているけれど、まぁ、賞レースってそういうものでしょ。

個人的には、安倍も東京新聞も実名で出てこない「新聞記者」も、菅(すがではなく、かん)も東京電力も実名で出てこない「Fukushima 50」もクソ映画だと思うけれどね。

この程度の作品で、自民党批判に踏み込んだとかマンセーしているパヨクも、民主党政権時代の悪夢を描いたとか喜んでるいるネトウヨも無知の塊だと思う。洋画も見る映画ファンだったら、こんな描写で絶賛なんてできないよね。

結局、パヨクもネトウヨも狭い世界の中で閉じこもっているだけだから何も知らないんだよね。

f:id:takaoharada:20210316141919j:plain