自腹批評

テレビ番組制作者が自腹で鑑賞したエンタメ作品を批評

神様になった日

終焉が迫る世界という設定、Keyの立役者・麻枝准がアニメ用に書き下ろしたオリジナル作品、「鬼滅の刃」で一般にも多少は名前が知られるようになった花江夏樹が主人公を演じる等々。注目要素はたくさんあり、多くの人が今期の“覇権アニメ(この言葉、最近使われなくなってきたかな?)”になるのではと期待していたと思う。

 

ところが、いざ、放送スタートとなると酷評の嵐!まぁ、第1話が台風の影響でL字放送になってしまったから、この時点で、真剣に見る気が失せてしまったというのもあるとは思うが…。

 

そして、最終話が放送されるまで毎週のように“神様になった日”と検索すると、一緒に“つまらない”とか“酷い”という言葉が出てくるほどだった。最終話では“不快”なんてワードも飛び出したほど…。

 

個人的には、ストーリー展開の尺配分を間違えているとは思うが、9話までは悪くなかったと思う。しかも、気付けば、ヒロインを可愛いと思うようになっていたし、もしかすると、“俺ってロリ?”なんて感じたくらいだったからね…。

 

まぁ、本作が酷評された最大の要因はセンスの古さだろうね。8話までの日常編は、ギャグや仕込まれたネタのセンスが古すぎるとは思った。まぁ、麻枝准ファンには、ここ10年くらい思考が停止している=新しいものを受け付けないような中年オタクが多いから、そうした世代に媚びれば受けると思ったのかもしれないが、実際は彼らにもあきれられてしまったからな…。でも、面白いことは面白いとは思ったけれどね。

 

そして、急展開すぎるとは思ったが、ヒロインの謎、世界の終焉の謎が明らかになり、主人公がヒロインに思いを告げる9話は正直、泣いてしまった。まぁ、ネットの声はこの9話も不評だったようだが。あと、世界が終わる日までのカウントダウンをこの回で終えてしまったのは構成上のミスだと思う。つまり、残り3話が単なる延長戦になってしまったんだよね。

 

そんな9話までをある程度評価していた自分でも、ヒロインが障害を持つようになった終盤の3話で主人公が記憶をなくしたヒロインを振り向かせようとする件は正直見ていて、イライラした。主人公に対しても、ヒロインに対しても、主人公とヒロインの仲を割くことに熱心な施設の女性に対しても、イラつく感情を抱いてしまった。そして、この終盤3話を見て、障害や難病を描いた“安易に泣かそうとする映画”や、「24時間テレビ」における“感動ポルノ”という言葉を思い浮かべる人がいるのも納得してしまった。まぁ、ヒロインが記憶も精神も体力も取り戻して、主人公とまた仲良くしましたというありがちな展開にしたくなかった=リアルな描写を取り入れたかってことなんだろうが、8話までのグダグダ日常系との差が大きいから、尚更、批判したくなるんだろうね。

 

シリーズ全体としては、センスの古さも問題だが、最大の問題はヒロインの座を巡るライバルがたくさんいるのに、全然活かされていないことなんだよね。アレだけ好きだった幼なじみはどうした?映画作りに熱心な妹は“妹萌え”狙いのキャラじゃなかったのか?それ以外にもラーメン店を経営している先輩とか、コメンテーターをやっている弁護士といった女性キャラもいたが、彼女たちも後半は空気扱いになってしまっていた。

 

それから、妹が自主映画を作っているという設定だが、中で出てくる用語が映画用語ではなく、アニメ業界の用語だったり、撮影の仕方が変だったりするんだよね。麻枝准は、あまり、映画作りに関する知識はないんだろうなと思った。

たとえば、自主制作映画を作る際のスタッフの割り振りで“制作”って出てきたけれど、何だそれ?って感じだった。多分、麻枝准にはアニメ業界の制作進行が頭に浮かんでいたと思うのだが、映画作りで(というかテレビもそうだが)“制作”といえば、監督(ディレクター)、助監督(AD)、プロデューサーなど技術職でないスタッフのこと全てを制作って言うんだけれどな…。制作進行をイメージしていたのであれば、それに近いポジションということで、助監督(AD)とかAP辺りの肩書きにした方が良いのではと思った。

 

とりあえず、麻枝准やなぎなぎが組んだオープニング曲、エンディング曲、挿入歌はいずれも名曲だった。コレが数少ない収穫かな…。

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